第二部 そして宇宙へ

1 来訪者


 借り屋敷の広大な敷地に、UFOが着陸した。

 とは言っても、「ステルスシステム」を作動しているので、敷地外からは見えないようになっている。


 UFOの中から降りてきた乗員が、迎えに来た屋敷のあるじ成瀬なるせゆうに右手を差し出して握手した。


「初めまして、斎藤さいとうたくです」

「おっ、もう日本名を用意してきたのか」

 成瀬は笑顔で斎藤を出迎えた。斎藤は一見すると、20代後半の日本人に見えるが、これでもれっきとした異星人エイリアンだ。


「今日から『グレイトヒーローズ』の一員ですから、当然のことですよ」

「またまた、外交辞令がうまいな」

「いや、本気ですよ。それとも、新参者はお断りですか?」


 成瀬はそれを聞いて真顔になった。

「俺の『後継者』を増やすという話は聞いてないぞ」

「そうでしょう、実は地球防衛任務のために来たわけではありません」


 その時、成瀬の頭の中に、ある単語が浮かび上がった。

「・・・『コール・ファ』のことか?」


 斎藤はにっこりと笑った。

「さすがは成瀬リーダー。『直感力』が冴えてますね」


「何だ?その『直感力』っていうのは?」

「ああ、話せば長くなりますので、まずは移動しましょうか」




 成瀬と斎藤は、『空間転送』で『有限会社グレイトヒーローズ』の事務室へ翔んだ。


兄弟子あにでし!」斎藤の姿を確認すると、本城つばさが嬉しそうにそばにやってきた。「お久しぶりです!」


「なんだ、斎藤さんと本城さんは知り合いなのか?」

成瀬が尋ねると、

「斎藤さん?」

本城が不思議そうに成瀬を見つめる。


「ああ、俺の日本名だ。斎藤拓にした」

 斎藤が説明すると、

「あっそうなんですか」と、本城は納得した。「私は本城つばさと名乗っています。成瀬リーダー、斎藤さんは私と同じ師匠から格闘術を習った、兄弟子あにでしなんですよ」


「格闘術の腕は、妹弟子いもうとでしに追い越されてしまったがな」

 斎藤は苦笑いして言った。


「そうか、二人は知り合いだったのか」


「斎藤さん」そこへ福井もやって来た。「初めまして、福井ふくい宗司そうしです。お茶入れますけど、コーヒーの方がいいですか? 紅茶もありますよ」

「ありがとう、紅茶を頼むよ」


「えっ? 飲んだことあるの?」

 成瀬が尋ねると、

「勿論。本国でもイギリスの商人を介して輸入してますよ」


 何ということだ、異星人エイリアンと貿易をしている商人がいるなんて!

 

「ここ1年くらいのことですけどね。星系連邦から許可を得ないと貿易はできませんが、商談相手にはエイリアンと気づかれないようにしなければいけません。でも地球の茶は、本国でもあっという間に人気になりましたよ」


「そんなことになっているとはな。知らなかったよ」



「ただいま~」

 そこへ、ひかるが夕飯用の買い物から帰ってきた。その手には小さな男の子の手が握られている。

「お帰り~」

成瀬がいきなり甲高い声で出迎えたものだから、斎藤は驚いていた。


「成瀬リーダーの妻のひかるさんと、息子さんの衛人えいと君ですよ」

本城が小声で斎藤に教える。


 あれが噂の、と斎藤は呟いた。


「あっ、お客様でしたか?」

 ひかるが尋ねると、

「初めまして、今日から『有限会社グレイトヒーローズ』に採用されました、斎藤拓と申します」

と斎藤は自己紹介した。


「あっ、どうも、成瀬ひかるです」とひかるも挨拶すると、成瀬に向き直り、「採用試験してたの?」


「おいおい、マジで居候するつもりか?」

 と成瀬が斎藤に問うと、

「しばらくこちらに滞在するつもりですよ」

と斎藤が返す。


「えっ、エイリアンさんなんですか?」

 そこで初めてひかるも気づいたようだ。


「そういうこと。客人として来たんだと思っていたら、追加の『後継者』だったようだ」

『後継者』ではないと知りつつも、成瀬は咄嗟とっさに取りつくろった。ひかるには聞かせたくない話だからだ。




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