36 吉報(第一部 完)

 横山は正式に『グレイトヒーローズ』に協力することを表明し、報酬を要求した。成瀬が前金で報酬を渡すと、早速足りない家財道具を購入して成瀬の借り屋敷に運び込んだ。そして事務所にときどき空間転送して来ては、みなとデートに出かけているようだった。



 本城は、振り込まれた今月の給料でファッションリングとネックレスを買って、楽しそうに街を歩いていたら、めざといキューティーソルジャーファンに見つかり、たちまち人垣に取り囲まれてしまった。



 福井は『グレイトヒーローズ』の活躍をリポートにまとめていた。伝説の戦士の戦記に自分が加わっていることに、大きな喜びを見いだしていた。



 成瀬は、キッチンでひかるの指導を受けながら、調理に悪戦苦闘していた。なにしろ調理経験はさらさらないし、そもそも味覚がほとんどないのだから、無理もない。

「初めてなんだから、形になるだけでも良しとしましょう」

 あまりにも怪しいものができそうになってきたので、ひかるは予防線を張った。


「でもどうして急に、料理を作ろうなんて思ったんですか?」

「ちゃんとした夫婦になりたいと思って」成瀬はしみじみと言った。「昔の日本ならいざ知らず、今は家事も子育ても夫婦協同が基本だろう?君にばかり負担をかけるわけにはいかないから」

「もしかして、気づいているんですか?」

「えっ、何を?」

 ひかるの言葉の意味がわからず、成瀬は問い返した。


 ひかるは、急にモジモジし出した。

「実は私、自分で検査薬を購入して調べたんですけど」

「えっ、どこか悪いの?」

成瀬が心配そうに聞くと、

「赤ちゃんができたみたいです」

 成瀬は十秒近く固まった後、破顔してひかるを抱きしめた。



 秋の陽光がやさしくキッチンを照らす季節になっていた。



     (第一部 完)


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