35 記者会見
次の日、テレビもネットも、前日の戦闘シーンの動画でお祭り騒ぎだった。複数の人間が戦闘を目撃してスマホで撮影していたらしく、映像が各メディアにも出回っていて、特に女性戦士がアイドル並みに可愛いと評判になっていた。
そのアイドル戦士に助けられたという母子がインタビューを受けたり、官房長官が定例会見で質問攻めにあったり、それこそてんやわんやの大騒ぎだった。
「随分と暴れてくれたもんだな」
ヴァーチャル・モニターの向こうの官房長官が愚痴る。
「感謝されこそすれ、責められるいわれはないぞ」
「政府が雇った傭兵じゃないかとまで言われているんだぞ」
官房長官の愚痴が止まらない。
「民間の映画の撮影ということにしておきたかったんだが、思ったより映像が拡散されてしまって、助けられた親子のインタビューまで取られてしまったんでは、どうしようもない。警備業務を委託している民間会社のSPだと説明したが、あの武器やロボットみたいなのは何だとか、憲法改正のための自作自演ではないのかとか、野党の連中はそんなことばかり追及してくる」
「そんなことは、こっちの知ったこっちゃないよ」
成瀬は、やれやれとでも言いたそうに両手を広げて見せた。
「そうはいかない。記者会見には、いつも政治部の記者しか来ないのに、本城さん人気でエンタメ班まで詰めかけているんだ。彼らは君らも記者会見に出せとしつこく迫っている。当事者に直接訊きたいとな」
「気が乗らないな。君と防衛大臣の務めだろう? それとも、私たちはエイリアンですって言えばいいのか?」
「君ね、そんなこと誰が信じると思う?」
「信じる人が一定の割合いるってことは、俺の周りで実証済みなんだけどな」
官房長官は苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「それはそれで困ったことだ」
「えー、それについては企業秘密であり、公開することはできません」
成瀬と本城は、結局記者会見に引っ張り出されてしまった。アンドロイドについて聞かれたのだが、官房長官に釘を刺されたとおり、煙に巻くしかなかった。
「そもそも、あの戦闘は何だったんですか?」
前列の記者が問う。
「おそらく、組織的なテロだったと思われます」
成瀬は毅然として答えた。
「何か事前に情報を掴んでいたんでしょう?」別の記者が尋ねる。「でなければ、警視庁と防衛省の二か所に、あれほど素早く対応できるはずがない」
「情報については、防衛省から事前に得ていました」
ここは政府に恩を売っておこう、と成瀬は考えた。何も知らないまま襲われました、では顔が立つまい。
「あの虎のような動物は、生物兵器だったんですか?」
「そのようなものと考えられます」
「それを倒した銃ですが、発砲音がしなかったとか、光線が出ていたという証言があります。本城さん、どういう性能なのか説明してもらえませんか?」
本城はにっこりと微笑んで、
「銃についても企業秘密ですので、残念ながらお答えできません」
きっぱりと言うと、一斉にカメラのシャッター音が鳴り響いた。
明日のスポーツ紙の一面は、彼女の笑顔で飾られるんだろうな、と成瀬は予想した。いや、一般紙もそうなるかもしれない。見出しは『女戦士 テロから首都を守る』かな? 俺のことは、ほとんど書かれないだろうな。
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