24 グレイトヒーローズ

 そうとは聞いていたが、これほど簡単に引っ越しできるとは・・・。


 『空間転送』ポイントを、アパートの部屋の中に変更し(最初に裏路地に設定したのは、ミニドローンがアパートの中に入っていけなかったからだとか)、荷物を屋敷に空間転送した後、屋敷の中の希望する場所に再転送することができた。これだと、広い屋敷でも家具を希望する場所に移動し、気に入らなければ何度でも変更できる。


 あっという間に、引っ越しは終わってしまった。それにしても、三階建てのこの屋敷は怖ろしいほど広い。全部で何室あるのか、まだひかるは把握しきれていなかった。


「おっ」

 成瀬は、左手を左耳に当てた。

「後継者が、もうすぐこっちに着きそうだ」

 耳に通信機が入っているのか、テレパシーなのか。この間、メン・イン・ブラック? に会いに行ったときは、多分テレパシーだったのだろう(スペース・シップの動力がダウンしていたので)。今は多分、色々な機器を使えるので、超能力を使わなくても通信ができるのだろうと、ひかるは思った。


 二人は外へ出て、上空を眺めた。成瀬は、空の一点をを指差した。

「あそこにスペース・シップがいるな」

しかし、ひかるには何も見えない。

 すると、この間、メン・イン・ブラック? が消えた地点あたりに、突如として二人の人間が現れた。

「二人だったのか」

 成瀬は、嬉しそうに微笑んだ。そこにいたのは、見た目は二十代前半のように見える、ウエットスーツのような服を着た男女だった。


「ようこそ地球へ。日本語は大丈夫かな?」

「はい」

二人は、同時に応えた。

 ひかるは、不思議に思って成瀬に尋ねた。

「悠さんは日本生活が長いから、日本語が達者なのはわかりますが、今来たばかりの二人が日本語を使えるのは、どうしてですか? この間の黒ずくめの人たちもそうでしたよね?」


 成瀬の答えは、

「リスニングもスピーキングも、実は翻訳機がやっているんだよ」

ひかるは驚いて、二人に尋ねた。

「そうなんですか?」

「そうなんです」

 女性の方が返事した。実際に話しているようにしか見えない。

「口の動きが、本当にしゃべっているように見えるんですが」

「口の動きも、翻訳機がやらせているんです」

当たり前のことだが、成瀬の星の文明のレベルは相当高いようだ。


「さてと」

 成瀬は、ひかるの肩を抱いて言った。

「俺が成瀬悠、彼女が俺の妻のひかるです。で、君たちは紹介しようにも、まだこの国での名前がない。日本政府に戸籍を作ってもらわなければならないから、とりあえず中へ入って、名前を決めてくれ」



「晩ご飯を作りますけど」ひかるは、成瀬に尋ねた。「あの二人も、食べてくれますかね?」

「ああ、地球の食事に慣れてもらうために、食べてもらおう。でも、彼らの胃は小さいから、五分の一位でいいよ。いつも食事はサプリだけだから」

「じゃあ、取りかかりますね」


 ひかるがキッチンで調理を始めると、成瀬は事務室の二人のところへ行った。

 二人はヴァーチャル・モニターを出して、日本人の名前を検索していた。

 やがて女性の方が、成瀬に向かって言った。

「私の名前は、『本城ほんじょうつばさ』にします。私は戦闘士ソルジャーです」


「僕は」今度は男性の方が言った。「『福井宗司そうし』にします。僕は研究員兼エンジニアです」

「へえ」

 成瀬は、興味深げに言った。

「君は研究者なんだ。なるほど、確かに考えてみれば、この星の防衛任務に研究者も必要だな。しかし、自分の身を守る程度の戦闘力は必要だが、どうなんだ?」

「残念ながら、そっちの方はさっぱりです。でも、機器や兵器を使った後方支援はできると思います」


「わかった。二人ともよろしく頼むよ」

 成瀬が右手を差し出すと、二人は代わる代わる握手した。この星の習慣は、予習してきたようだ。



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