26 アンドロイド
成瀬が給湯室でコーヒーを飲んでいると、福井から『超通信』で連絡が入った。
(♯バイオビーストを孵化させた犯人がわかりました)
早いな、おいっ! 成瀬が事務室へ行くと、本城も来ていて、一緒にヴァーチャル・モニターを見ていた。
「衝撃波の痕跡から、波長を特定して追跡した結果、この男が発したレーザーバレットが原因と確定しました」
マイクロドローンが撮影している映像が映し出されていたが、それはまだ若い男だった。
「エスパーなのか?」
「可能性はありますが、まだわかりません」
「とりあえず、確保しましょう」
本城は、もう行く気満々だ。
「ちょっと待て」
その若い男のところへ別の中年男が訪れ、話をしだした。
「会話を拾います」
福井が言うと、音声が入ってきた。
「あさって、例のヤツを持ってきてくれ」
中年男が、若い男に言った。
成瀬は超能力で、その瞬間に理解した。
「中年男の方はテロリストだ。若い方は、運び屋だな。本城さん、若い方を確保しに行くぞ」
空間転送位置を決め、成瀬と本城は現場へ翔んだ。
急に現れた二人を見た若い男は、驚くでもなく、近くの公園へ走り出した。成瀬と本城が追いかけると、男は公園内で立ち止まった。
「君はエイリアンだな?」
成瀬の問いに、男は不敵な笑みを浮かべた。かと思うと、その背後に突然球形の青い異空間が現れ、その中から異形の生命体が出てきて、若い男との間に立ち塞がった。それは体長が二メートル以上あり、人間のように手足はあるが、眼は昆虫の複眼のようで、鼻も耳も口もない。
(♯あれは何でしょうか?)
『超通信』で本城が成瀬に尋ねた。
(♯アンドロイドっぽいな)
成瀬は応えると同時に、
だが、それは命中したと同時に跳ね返されてしまった。
(♯反射性特殊合金ですかね?)
本城もレーザーバレットを撃とうとしていたが、効かないとみて、やめた。
(♯肉弾戦でいってみます)
言うが早いか、本城はもの凄いスピードで『異形』との距離を詰め、横蹴りを食らわした。だがこれも効かず、逆に『異形』がパンチを放ってきたため、本城はすんでの所でそれをかわして後退した。
(♯一発だけでは効かないですね)
本城は、とても悔しそうだった。若い男は、どうだ、と言わんばかりのドヤ顔をしていた。
今度は『異形』が、指先からレーザーバレットを発射してきた。成瀬は、『シールド』を発動して防御した。
(♯ひとつ、試したいことがある)
成瀬は、『超通信』で本城に伝えると、『シールド』を発動したまま、ゆっくりと『異形』に近づいていった。
『異形』は、レーザーバレットを数発放ったが、効かないとみると、格闘体勢をとった。
スピードもなく近づいていけば、リーチの長い『異形』のパンチの方が先に当たるのは自明の理。しかし、『シールド』があれば、成瀬の攻撃が当たる距離まで近づける。問題は、成瀬が攻撃を仕掛ける瞬間、『シールド』を解除しなければならないことだ。その瞬間、『異形』も一撃を入れてくるだろう。
だが、成瀬は攻撃もせず、ゆっくりと『異形』の懐まで入り込んだ。『異形』のAIは、おそらくその行動理由が読めないでいた。が、それでも危険を感じたのか、成瀬の左に回り込むと、前方をカバーしているであろう『シールド』の間隙を縫うように、右回し蹴りを放ってきた。
このキックは、成瀬にとって想定外だった。『異形』の攻撃はパンチだろうと予想していたからだ。キックは、かわされたときにバランスを崩して、相手につけいる隙を与えてしまう。パンチならば、かわされてももう一方の腕で続けて打てる。それゆえ、キックは想定外だったのだ。
それでも成瀬は慌てなかった。左腕を上げて、一旦『シールド』でキックを受け止めた後、すぐさま『シールド』を解除し、素早く相手の懐に再び入り込むと、両手の平をその腹部に当てた。
そして次の瞬間、ありったけの力を込めて『異形』を押し出した。キックを繰り出して片足立ちになっていたせいもあるが、『異形』は驚くほどの勢いで後方に飛ばされ、すごい音を立てて倒れた。
『異形』の機械でできている体から、火花が散り、白煙が上がった。明らかに、どこかショートしたようだった。
若い男は、呆然としていた。戦闘型アンドロイドが、生身の人間と戦って負けるとは思いも寄らなかったようだ。
成瀬は、再び
「抵抗するなよ。話をしよう」成瀬は、若い男に向かって話しかけた。「どうしてテロリストを支援している?」
「俺は、革命に協力しただけだ」
若い男は、動揺を隠せないまま答えた。
「バックにいるのはどこの国だ? A国か? B国か?」
「俺は、この国の多くの人が望んでいることを、実現するのに協力したいと思っただけだ」
「本気で言っているのか? それはテロリスト側の論理だ。この国の99.9999パーセント以上の人は、テロによる革命など望んではいない。君は騙されているんだ。さっき会った男から何を頼まれた?」
「外国から爆弾を空間転送してくれと・・・」
この国で爆弾を作ろうとすれば、どこかで足がつく可能性が高いし、外国から持ち込もうとすれば、空港で引っ掛かる。なるほど一番手っ取り早い方法だな、と成瀬は思った。
「どこの国からだ?」
男は口をつぐんだ。
「言えないのか? それなら質問を変えよう。どうしてバイオビーストを孵化させた?」
「俺の星系の科学者が作ったものだからだ。孵化したらどうなるのか、見てみたかっただけだ」
その時、壊れたと思っていた異形のアンドロイドが立ち上がり、成瀬たちと男の間に再び立ちはだかった。だが異音を発し、白煙が立ち上っていて、とても戦える状態とは思えない。
若い男は、父親からアンドロイドを贈られた、小さい頃のことを思い出した。
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『お前は、兄と違って体力がないし、気が弱い。いざという時に、自分を守ることもできないだろう。だから、お前の代わりに戦ってくれる、お前のしもべとなるアンドロイドを授けよう』
アンドロイドは見上げるほど大きかったが、身をかがめて彼に話しかけた。
『私に名前をください』
彼は少し考えてから言った。
『レン。君の名前は、レンだ』
『私はレン。よろしくお願いします』
その日から、レンは彼の代わりに戦い、彼を守ってきた。レンはとても強く、これまで負けたことも、故障したこともなかった。人間とアンドロイドの違いはあっても、彼とレンは家族よりも強い絆で結ばれていた。
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そのレンが、満身創痍になりながらも今、成瀬たちの前に立ちはだかり、彼を守ろうとしている。それを思うと、男の両目は潤んできた。
「そのアンドロイドは、君のナイトなんだな。ずっと守ってもらっていたのか?」
成瀬には、健気なアンドロイドが哀れに思えた。
「警告する。二度とテロリストと接触するな。今度接触したら、身柄を拘束し、アンドロイドを完全に破壊する」
一方で、成瀬は『超通信』で福井に連絡した。
(♯福井さん、あの男にマーキングしてくれ)
(♯了解)
福井は、こっそりと現場に飛ばしていたマイクロドローンから、極小探知機を発射して若い男の服に取り付けた。
「今日のところは、解放してやる。改心するなら、相談には乗るぞ」
成瀬は、銃を下ろして忠告した。
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