27 横山
「成瀬リーダー、どうしてあの者を拘束しなかったのですか?」
事務室へ空間転送された後、本城が成瀬に尋ねた。
「拘束したところで、あいつは肝心なことは何も知らされていない。たいした情報は得られないだろう。それに、あいつはバイオビーストを作った星系のエイリアンだとわかった。俺たちの星系とは一触即発の星系だから、あまり事を荒立てたくはない」
成瀬は、空間転送前に飲みかけだった冷めたコーヒーを飲みながら、続けた。
「あいつは、いつもアンドロイドに守られてきたやつだ。所詮、一人前じゃないんだよ。それなのに、そのアンドロイドを俺が壊してしまった。仕方がなかったとはいえ、かわいそうなことをしたな」
「そういえば」本城が思い出して成瀬に尋ねた。「どうやってあのアンドロイドを倒したのですか?」
「あれは、
成瀬はコーヒーカップを置いて、あの時の型を手で示した。
「相手に
「それは超能力をプラスしているのですか?」
「あー、どうなんだろう? 自分では意識していなかったけど、もしかしたらプラスされてるかもしれない」
そうでなければ、あの威力は説明できないのだが、と本城は思った。
次の日、『有限会社グレイトヒーローズ』に、意外な来客があった。受付をしているひかるから、
「悠さん、お客様です」
と告げられて、見てみると、昨日戦った(アンドロイドとだが)若い男だった。
その男を見て、本城は警戒していたが、成瀬は無防備に歩み寄った。
「やあ、来るような気がしてたよ。何か用かい?」
「お願いがあります」男は頭を下げた。「どうか、レンを直してください」
「アンドロイドのことか?」成瀬にはわかっていたようだ。「昨日俺が警告したことは、守ってくれるんだな?」
「勿論です」
成瀬は、この星系の人間が約束は守ることを知っていた。
「わかった。福井さん、開発室(外来者がいるときは、「訓練室」とは言わない)へ来てくれ」
福井は、成瀬と男の後について行って、開発室に入った。本城も、心配そうに後をついてきた。
「レンだっけか? ここで出してみてくれ」
男がうなずくと、昨日と同じ球形の青い異空間が現れ、その中からアンドロイドが出てきた。
福井は眼鏡をかけて、アンドロイドを見た。この眼鏡は、内部を透視できるものだ。
「ちょっと部品を加工する必要はありますが、何とかできそうですね。今日中には、何とかなると思います」
「いいんですか、敵に塩を送って?」
本城が成瀬に言うと、
「彼は既に敵ではないよ」
と成瀬は答え、男に向かって、
「君の日本名は、なんていうんだ?」
と尋ねた。
「横山竜です」
「それじゃあ横山さん、福井が直している間、事務室で待っていてくれ」
「ひかるー、遊びに来たよー」
お昼になると、かなとみながやって来た。ひかるは笑顔で二人を迎えて、隅の方にあるテーブルへ連れて行った。
三人はそれぞれ弁当を持ち寄って、食べながら近況報告をし合っていた。するとそこへ成瀬がやって来て、かなの前で深々と頭を下げ、
「申し訳ございませんでした!」
かなは大笑いしながら、
「もういいですよ。でも、ひかるなんかと結婚して、うまくやっていけるんですか?」
「なんかって何よ」
ひかるはふくれっ面になった。
「まあ、ゆっくりしていってください」
成瀬が早々に退散すると、
「社長さんだよね? 腰低すぎない?」
と、みなが突っ込んだ。
「それにしても」
かなは事務室を見回しながら、
「人数の割には広すぎる事務室ね。本当に何やってる会社なの?」
「まあ、情報収集とか、コンサルティングとか、色々とね」
ひかるは、このときのために考えてあったとおりに説明した。
「ねえ、あの人は?」
みなが、部屋の反対側にあるテーブルについている横山を見て言った。
「あれは、お得意様の横山さん」
「ふーん、若いのに、偉いの?」
「あっ気になる?」
かなが、すぐに茶々を入れる。
「そういうわけじゃないけど」
みなは、うっすらと頬を赤らめた。
「私は、あの人の方がタイプかな」
かなは、福井を指差して言った。
「指差さないの」
ひかるがたしなめる。
ひかるは嬉しくてたまらなかった。またこうして、かなとみなと会って話ができることが。
福井は、何度か事務室と開発室を行き来して、成瀬に確認を取りながらアンドロイドの修復作業を続けていたが、三時間程して、横山に完了したことを告げた。
「それでですね、成瀬リーダーの許可を得て、一部機能を追加してあります」福井は横山に説明した。「生命体以外の物体を、『クラウド(異次元空間倉庫)』に放り込める装置を搭載しました」
「えっ、なんで?」
横山は、唖然としていた。
「つまりだね」
成瀬が説明を引き取った。
「これからは、テロリストは君の敵だ。そう認識してほしい。だから、彼らが爆発物を仕掛けるところを見つけたら、この装置を使って、爆弾を『クラウド』に放り込む。めでたしめでたし、というわけだ」
横山は、ちょっと不満そうな顔をしていた。成瀬たちの手下として使われるような気がしたのだろう。
「それと、もし君が裏切った場合、再び壊れるようにセットしてあるから、悪く思わないでくれ」
悪く思わないはずがないのだが。
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