　訓練室で、成瀬と本城は格闘訓練を行っていた。擬似シールドを装備した訓練用スーツを着ているので、怪我はしないようになっている。だから本城は、成瀬に怪我をさせる恐れはないのだから、遠慮せずに技を繰り出そうと思っていた。

　最初に動いたのは、成瀬の方だった。まず、左ジャブを繰り出す。

　本城は軽やかな動きで、成瀬の右側に身をかわす。すると、成瀬はすかさず右ストレートを放つ。

本城はスピードを上げて、さらに右へ回り込み、成瀬の右側頭部を狙って右ストレートを放とうとした。

　その瞬間、本城は危険を感じ、とっさにダッキング（しゃがむ）した。次の瞬間、本城の頭の上を成瀬の右手の甲がかすめた。右ストレートから転じた右裏拳だ！

　本城は、状況を素速く分析した。今、成瀬の体は完全に開いている。つまり、両足のどちらも前にステップしていない、平行な状態だ。この状態から左パンチを繰り出しても、力の入らない手打ちになってしまう。それに、既に本城は成瀬に近づきすぎているので、パンチを当てることはできないはずだ。

　今がチャンスだ。本城は、ダッキングした状態から膝を伸ばしてゆき、成瀬の顎を狙って下から右ストレートを放った。

　だが、成瀬は重心を左に移すと同時に首を左に傾け、本城のパンチをかわしてしまった。

　本城は、成瀬の次の攻撃を読んだ。ここまでは右ストレートからの右裏拳だったが、そこから左足に重心を移したので、右フックに違いない。右手による三連打だ。だから後方に動いてかわす。成瀬の右フックは、かわす本城の顔面をかすめて空を切る・・・はずだった。

　次の瞬間、本城は右側の床に叩きつけられていた。何が起こった？

　首を刈られた。擬似シールドがなかったら、折られていたかもしれない。

「今のは右ラリアットですか？」

　本城の問いに、成瀬は頷いた。

　本城は、それを脳内で再生してみた。こめかみをピンポイント＝点で狙う右フックなら、後方に動いてかわせた。だが、腕を伸ばしたまま振り下ろす右ラリアットなら、広い空間を点ではなく線でカバーできる。結果、後方に動いてもかわしきれず、首を刈られることになったわけだ。

「どうすれば、正解だったでしょうか？」

　本城の問いに、成瀬は少し考えて、

「ラリアットを繰り出した後では、かわすのは難しいな。だからその前に、脇腹に左フック、または正面から左掌底突きというところかな」

「かわそうとせずに、攻めればよかったんですね」

「だが、右裏拳をかわされた時点で、俺の負けだった。体が完全にノーガード状態になってしまったからな。その後は運が良かっただけだ。君は強いよ」

　いや、この人は相当に強い、と本城は思った。既に彼女は、かつての師匠を打ち負かすほどの強さを身につけていた。その師匠よりも、遙かに強い。超能力を使っていないのに。

　これはもう、弟子入りするしかないな。本城は嬉しくなった。

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