30 スペース・シップと借屋敷2
「うわあ、私も飛んでるのに乗ったのは初めてなんだ」
飛んでいるスペース・シップの中で、ひかるははしゃいでいたが、
「これ、嘘じゃないよね、実感がないんだけど」
かなは冷めた表情で呟いた。窓がなくて、ヴァーチャル・スクリーンに外の景色が映し出されていること、そして、電車に乗っているときに感じる横G・前後Gを全く感じないことが、実感がわかない理由だった。
しかし、そう感じるだろうことを想定して、福井はあらかじめ、乗る前にスペース・シップを飛行させて見せていた。だから、ちゃんと飛ぶものだということは、彼女たちも認識しているのだが、
「全然揺れないし、これじゃあ、ゲームをやっているみたいで臨場感がないね」
かなが嘆くと、
「反重力装置が作動しているので、揺れたりはしないんです」
福井が説明した。
「福井さんって、優秀なパイロットなんですね」
と、かなは急に目を輝かせて言う。
「いやいや、本国じゃあ、地球で自動車を運転するように、誰でもスペース・シップを動かせますよ。ほとんどAIがコントロールしてくれますから」
「そうなんですか」
かなは、さりげなく福井との距離を縮めて、会話をしようとする。
だが、気の利かないみなが、
「これ、地上から見えてるんじゃないですか?今頃大騒ぎになっているんじゃあ・・・」
と心配して福井に言うと、
「大丈夫、見えないようにステルス・システムが作動しています。レーダーにも映りません」
福井は詳しく解説したが、彼女たちには、残念ながらさっぱり理解できなかった。
地上に降りて屋敷に入ると、今度はその広さに驚くかなとみなだった。
「ひかると成瀬さんは、こんな広い屋敷に住んでいるの?」
かなが尋ねると、
「福井さんと本城さんも住んでいるよ」
「えっ、そうなんだ」
いいことを聞いたと、かなは思った。
その時、エレベーターが一階に止まり、成瀬と横山が中から出てきた。それを見た途端、みなが横山に駆け寄って行った。
「横山さんも来てたんですか?」
「うん、ここに住むことになったんだ」
横山は、成瀬がニヤニヤしながら見ているのがうっとうしいので、
「俺の部屋に行ってみる?」
みなは、もの凄く嬉しそうに頷き、横山と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
「後でお菓子とジュースを持って行くね」
邪魔するわけではないが、ひかるは二人きりにするのが心配で、声をかけた。
「君の友達は、二人ともエイリアンに警戒心がないのかな」
成瀬が不思議そうにひかるに尋ねると、
「悠さんを見ているから、親しみを感じているんですよ」
「ふうん、そんなもんかね」
どうやら、成瀬は大分軽く見られているようだ。
「すごい広さですね」
横山の部屋に案内されたみなは、そのあまりのだだっ広さに驚嘆した。広いリビング、寝室が二部屋、キッチン、バスのほかに、書斎らしき部屋まである。それゆえ、ある疑問が生じた。
「横山さんは、ご家族と一緒にお住まいなんですか?」
みなの質問に、横山は首を横に振った。
「家族はいない。この広さには俺も閉口してるんだ。ここは元々外国の要人を迎える迎賓館だったらしく、どの部屋もこんな感じらしい」
「でも、結婚して夫婦で暮らすには、いい部屋ですよね」
みなは、言ってしまってからハッとした。自分が横山と結婚したがっているかのように受け止められかねないな、と思った。
「まあ、それも相手がいればの話だ」
横山の返事に、みなは内心とても喜んだ。誰とも付き合っていないというニュアンスだからだ。
「とにかく、この部屋は今日借りたばかりなので、まだ家財がほとんどない。これから買いそろえなきゃならないんだ」
「あの」
みなは、バッグの中から小さな箱を取り出し、
「この間のお礼です。たいした物ではないんですけど」
と、その箱を横山に差し出した。
「ありがとう。開けてみていい?」
横山が包みを開いて箱を開けてみると、入っていたのは猫のイラストが描かれたマグカップだった。
「ああ、これは素敵だ。本当にありがとう」
初めて横山の笑顔を見たみなは、さらに胸がときめくのを感じた。
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