29 みなと横山

「一体何を隠してるの?」

 仕事を終えてから、かなはみなを連れて成瀬の会社にやって来た。ひかるには、あらかじめ終業後も会社に残っているように連絡していた。


「あの横山っていう人は、何者なの?」

 ひかるには、かなが何を怒っているのかわからなかった。

「怒るようなことじゃないよ、私、助けてもらったんだから」

 みながかなをなだめて、スマホを取り出し、撮っていた映像をひかるに見せた。そこには、アンドロイドのレンと横山の後ろ姿が写っていた。元々は、怪しい動きをしていたテロリストを撮ろうと準備していたのだが、結果的に横山たちの決定的瞬間が撮れたのだった。


 その映像を見たひかるは、絶句してしまい、成瀬を手招きした。やって来た成瀬も同様だった。どう言い逃れをしたものか、必死で考えた。

「このロボットみたいなのが、どこから出てきてどこへ消えたのか、よくわかりませんでした。テロリストが爆発物を投げたので、どうのこうのと彼は言ってました。あと、成瀬さんに聞いてないのか、とも言ってました。ということは、成瀬さんは何か知っているということですよね?」


 みなの追及に、観念するしかないと成瀬は思った。

「これは国家機密に関わることだから、絶対に口外しないでもらいたいんだけど、実は、彼は宇宙人なんだ」

「やっぱり」

意外なことに、みなは納得したようだった。


 だが、かなはそうではなかった。

「その国家機密を知っている成瀬さんは、何者なんですか?」

 矛先が成瀬に向いた。成瀬がひかるの方を見ると、ひかるは黙って頷いた。

「僕は・・・日本国籍だけど、この星で生まれた人間じゃない」

相当回りくどい言い回しだったが、

「それって、やっぱり宇宙人ってことですよね?」

と、かなにあっさり決めつけられてしまった。

「そういう・・・ことです」


「それじゃあ、社員さんも地球人じゃないんですね?」

 成瀬は頷かざるを得なかった。後ろで本城と福井がハラハラしながら見ている。

「でも、友好的な宇宙人ってことでいいんですね?」

「それはもう、地球人と結婚しているくらいですから」

 かなは、ようやくクスッと笑った。

「それじゃあ、今度UFOに乗せてください」

「・・・わかりました」

 成瀬は、かなの攻勢にタジタジとなり、約束せざるを得なかった。


「それで」今度はみなが聞いてきた。「横山さんは、いつ来るんですか?」

「さあ、わからないなあ」

「そんな・・・連絡方法はないんですか?」

「彼は、近々来ると思いますよ」福井が言った。「アンドロイドのメンテナンスがありますから」

「連絡先を聞いておいてくださいよ」

 みなが懇願した。


 なんか、怖がられたりするかと覚悟していたが、思っていたより相当ゆるい反応だな、と成瀬は思った。それと、みなの方は横山に気があるようだ。



 次の日、横山が成瀬の会社にやって来た。入ってくるときに、そーっとドアを開けて、中をキョロキョロと見渡してから。


「言われたとおりにしてくれたようだな」

 成瀬が声をかけると、

「あの女性から聞いたのか?」何となく、横山はビクビクしている。「彼女がいる前でレンを出してしまったが、あれは仕方なかったんだ」


「わかってる。それはもういいんだ。ただ、彼女が君と連絡を取りたがっている。スマホは持ってないのか?」

「あるけど、テロリストから支給された物だから、もう捨てた」

「じゃあ、これを使え」

 と言って、成瀬は横山にスマホを渡した。


「彼女の連絡先は、もう登録してある」

「・・・それは命令か?」

「俺が君に命令したことはないだろう? ただ、彼女は君に好意を抱いているようだから、付き合うにせよ断るにせよ、会ってやってほしいとは思う」

 横山は、少し考えた後、

「どうすればいいと思う?」

意外にも、成瀬にアドバイスを求めてきた。


「付き合ってみてもいいんじゃないか?」

「地球人と、どうやって?」

「彼女は、君がエイリアンと知ってて好意を抱いているんだぞ。お互い文化の違う民族だと思えば、最初のうちはうまくコミュニケーションがとれなくても、よく話し合えば何とかなることもある」

 それから、ニヤッと笑って、

「そのうちに、俺とひかるさんみたいに一緒に暮らすこともあるかもしれないし」


「俺には、一緒に暮らす家はないぞ」

 横山がぼそっと言ったのを聞いた成瀬は、その気がないでもないんだな、と思った。そこで、ひかるに向かって尋ねた。

「美浜さんは一人暮らしなの?」

「いえ、実家から通ってます」

「ああ、それだと美浜さんの家に同棲はできないな。じゃあ、うちの屋敷に来るといい。部屋はいくらでもあるから、そこで暮らしてもいいし、使いたいときだけ使ってもいい。そうだ、君、日本国籍は持っているのか?」

「持ってない」

「じゃあ、もしもの時のために作っておこう。日本政府に頼んでおくから」


 この男はなんてお節介焼きなんだろう、と横山は思った。一方で成瀬は、これでグレイトヒーローズに一人取り込めたな、とほくそ笑んでいた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る