33 警戒
平穏な日々が3か月程続いたある日のことだった。
「地球上のサイバー・アンダーグラウンドに、不穏なキーワードが隠れています」
福井が成瀬に報告した。
「『暗殺』と『侵略』です。どちらも『日本』と関連付けされています」
成瀬は、久々に全身に緊張が走るのを感じた。
「引き続き調査を続けて、情報の出所を探ってくれ」
福井に指示を出す一方で、屋敷から会社に持ってきたホットライン・パソコンで、官房長官と連絡を取った。
「ユーゾー、緊急事態だ。おそらく総理が狙われている。SPを増員してくれ。情況次第では、俺も警護に入る。あと、日本周辺海域と空域の警戒を強化してくれ」
「どういうことだ?」
「まだ誰かはわからないが、暗殺と侵略を企てているやつがいる。総理のスケジュールを送ってくれ」
そして送られてきたスケジュールを福井に渡し、
「マイクロドローンを使って、総理の立ち回り先をあらかじめ警戒しておいてくれ」
さらに、訓練室で自主トレをしている本城を呼び、
「警戒態勢に入る。スタンバイしてくれ」
そして最後にひかるを呼び、
「もしかしたら、しばらく家には帰れないかもしれない。でも心配しないで・・・」
全部言う前に、ひかるは成瀬に抱きついてきた。
「気をつけて、危ないことは避けてくださいね」
本城と福井がにまにましている。ひかるが周りを気にしないでこういう行動をするのは、これが初めてではない。だがエイリアンにとっては、何度見ても珍しい光景なのだ。
「横山にも連絡しておきますか?」
福井が成瀬に尋ねた。
「そうだな。協力してくれるかどうかはわからないがな」
いざという時は、加勢してくれれば有り難いのだが。
「ところで福井さん、マイクロドローンは全部で何体あるんだ?」
「すみません、一万体以上あるのは間違いないんですが、正確なところは・・・」
「いや、充分だ。総理の立ち回り先の調査に使っているのは、そのうちの何体だね?」
「二千体未満です」
「OK。今のところ、異常は発見されていないのか?」
「まだ発見されていません」
「そうすると、あらかじめ爆弾を仕掛けている可能性はなさそうだな。もし今後も爆弾が仕掛けられないとすると、違う方法で総理を狙うのかもしれない。その場合、どういう方法が考えられる?」
「う~ん、正面から襲ってくるとは考えにくいのですが・・・」
そばで聞いていた本城が、口を挟んだ。
「総理の周りはSPで固められるでしょうが、それ以外の警官は極力排除したいところです。何らかの陽動事案を発生させて、総理周辺の防衛力をそぐ方向に持って行きたいでしょうね」
「そういう情況にしてから、暗殺部隊を投入してくるのかな?」
福井が尋ねると、
「SPが8人位だったら、私一人でも倒せますよ」
と本城が言うので、
「それは凄い」
と、福井も驚嘆せざるを得なかった。
「本城さんは軍事訓練を受けているんだったね。SP以外を剥がすとすると、どういう陽動が有効だと思う?」
成瀬の質問に、本城は、
「防衛軍の中枢に集中攻撃を仕掛けるのが、最も効果的と考えます。自軍を守るのに集中せざるを得ない状況に追い込むんです」
と、迷いなく答えた。
「とすると、この場合・・・警視庁かな。よし福井さん、警視庁周辺にもマイクロドローンを飛ばして警戒してくれ。あとは・・・」
成瀬は、ヴァーチャル・モニターで空を映し出した。
「これは俺の勘なんだが、どうもエイリアンが絡んでいるような気がする。スペース・シップが出現するかも見張っててくれ」
「それは」福井が尋ねた。「予知能力ですか?」
「いや、そっち方面の能力は俺にはないはずだ。あくまでも勘だよ」
成瀬は考え込んだ。なぜ俺は、今回の事案にエイリアンが絡んでいると感じるのか? それにはおそらく、横山の件が絡んでいる。横山がテロリストと関係があったこと自体が、エイリアンの関与を証明しているともいえる。
テロリストを派遣したり、国内で育成しているのは、横山は口を割らなかったが、おそらくA国だ。A国は、実際に周辺海域や空域で日本に脅威をもたらしている。
では、なぜ横山はA国をかばうのか。それは、横山の星系の人間がA国と親密な関係にあって、その者に探索が及ぶことを懸念したからではないのか? とすると、横山に近い人間が関わっている可能性がある。
「福井さん、横山について情報を集めてくれないか」
「わかりました」
福井は、なにしろ情報収集能力に長けている。ヴァーチャル・モニターをいじくって、ものの二、三分で、有力な情報にたどり着いた。
「これは・・・びっくりですね」福井は、思いがけない情報に本気で興奮しているようだった。「あいつ、XX星系の第七王子みたいですよ」
「なんだって?」成瀬は動揺した。「すると、横山の兄弟が今回の事案に関わっている可能性が高いな。横山と連絡は取れたのか?」
「それが、昨日から留守にしていて、連絡も取れません。GPSもバレて、外されたようです」
あっち側に着くつもりか、それとも中立を保つのか。どっちにしても、
「力を借りるのは無理なようだな」
「それどころか、敵に回るかも知れません」
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