3 超能力

 ひかるのアパートで、『グレイトヒーロー』は、そわそわしながら料理が出来上がるのを待っていた。何を作っているのかはわからないが、キッチンスペースにいる後ろ姿を見ている限りは、割と手際よく作っているように見えた。


「できましたよ」

 ひかるが運んできた料理は、オムライス、唐揚げ、野菜サラダ、それに味噌汁だった。

「短時間で作ったにしては、見事な出来映えだね」

 ひかるは褒められて嬉しそうにしながら、

「でも、残念なことに、私ちょっと味付け感覚がいまいちなんですよね。まずくても勘弁してくださいね」

食べる前から、ひかるは両手の平を合わせて『ごめんね』ポーズをとっていた。


「それじゃあ、いただきます」

 一口食べて、ひかるの顔から笑みが消えた。

「・・・やっぱりだめだったみたいです。ちょっと薄味過ぎるみたい」

 『グレイトヒーロー』は苦笑いしながら、オムライスを一口食べてみた。すると、彼の顔からも笑みが消えた。


 突然、彼の目から一筋の涙が頬を伝い落ちていった。

 ひかるはそれを見てひどく動揺した。泣くほどまずいの?


 だが、

「こんなにうまいものは、食べたことがない」

と、『グレイトヒーロー』はひかるの料理を次々と口に運びだした。そのことに、ひかるはさらに動揺した。どう考えても嘘だろう。


「まずい物を、無理して食べなくてもいいんですよ」

 ひかるは言ったが、『グレイトヒーロー』は、

「いや、とてもおいしいよ。本当にありがとう」

 本当に? この人、味オンチなのかな? それとも、今までろくなものを食べてこなかったのかな?


 そうして『グレイトヒーロー』は、あっという間に料理を平らげてしまった。そればかりか、

「唐揚げ、もうない?」

まさかのおかわりリクエストだった。


「あります。でも本当に大丈夫ですか?」

「えっ、何が?」

 ひかるは唐揚げを食べてみたが、やっぱりまずい。

 でもリクエストなので、恐る恐るおかわりを持ってきた。『グレイトヒーロー』は、嬉々としてそれを食べた。味オンチ決定だな、とひかるは思った。


「『グレイトヒーロー』さんのマジックについてですが」

 ひかるは、頃合いを見て切り出した。

「そろそろ種明かししてくれませんか?」

「そんなに難しい話じゃないんだ」『グレイトヒーロー』は、上機嫌で言った。「一瞬で着替えて見せたのは、『形状記憶変装』を解いただけだ」

 形状記憶変装?聞いたことのない言葉だ。

「不良どもを金縛りにしたのは、君たちが超能力とか念力とか言っているやつだよ」


 思いがけない返答だった。種明かしもへったくれもあったもんじゃない。

「本当ですか?」

「ちょっとやってみようか?」

 『グレイトヒーロー』は、空気を撫でるように右手の平を回した。するとひかるは、突然頭の上を撫でられたような気がして、驚いて上を見つめた。だが、そこには何もない。


 次に彼は、手の平を上に向けて、手前に手招きするような仕草をした。すると、ひかるのオムライスの皿の上に置いていたスプーンが、彼女の目の高さまで浮いた。それもゆっくりとではなく、急にだ。


 ひかるは思わず、スプーンの上下の空間を手で払ってみた。糸のようなもので吊られているのかと思ったが、そうではない。スプーンは縦に円を描くように飛行し、皿に戻った。


 それでもひかるは、まだマジックの可能性を考えていた。

「さっき不良にやったのと同じことを、私にもやってみてください」

 『グレイトヒーロー』は、困り顔になった。

「女性を乱暴に押さえつけるなんてことは、やりたくないんだけどな。まあ、リクエストということなら、ちょっと加減して」

 あのとき不良たちにしたように、右手で上から押さえるような動作をした。すると次の瞬間、誰かが後ろからひかるの体にのしかかってきた・・・と思った。それは一瞬だったので、驚いたひかるは振り返った。だが、そこには誰もいない。


 これは・・・本物だ。本物の超能力者エスパーだ。

「驚きました。エスパーって、本当にいるんですね」

「もっと驚くべきことがあるよ」

 『グレイトヒーロー』は、衝撃的なことを実にあっさりと言った。

「俺は、君たちがいうところの『宇宙人』、つまり異星人エイリアンだ」



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