20 メン・イン・ブラック?

 空港からの帰り、車を運転していた成瀬の表情が、突如変わった。真剣な顔で、少しの間押し黙っていたかと思うと、突然進行車線を変えた。

「ちょっと新宿に寄るよ」

 どうしたのかとひかるは思ったが、彼は、時折何やら呟いているようにも見えた。もしかしたら、誰かとテレパシーで通信しているのかもしれない、と彼女は思い当たった。また官房長官だろうか?


 彼は都庁近くの駐車場に車を停め、

「君も来てくれ」

とひかるを伴って、都庁前の広場にやって来た。


 広場を見渡すと、遙か向こうに、黒ずくめのスーツでサングラスの男が二人立っていた。メン・イン・ブラックか? とひかるは思った。

 成瀬はひかると手をつないで、その男達の前まで歩いて行った。二人とも年齢がよくわからないが、成瀬よりはずっと若そうだ。だが、その黒ずくめの出で立ちの圧力で、ひかるはちょっと不安になっていた。


 成瀬は彼らに話しかけた。

「周りの人たちに怪しまれないよう、日本語で頼む」

その言葉に、ひかるはハッとした。この二人は、もしかしてエイリアン?

「わかりました」

 二人のうち一人が、言われたとおり日本語で話し出した。

「長い間、お疲れ様でした。星間戦争があったせいで、この星とのゲートが繋がらなくなっていました。このたび、ようやく繋がる運びとなり、我々が迎えに参った次第です」


 えっ? ひかるはひどく動揺した。迎えに来た? 彼を連れて行ってしまうの?

 成瀬は落ち着いた口調で話した。

「先日、二十年ぶりにバイオビーストが現れた。残念ながら、この星の脅威はまだ去っていない」

 すると、メン・イン・ブラック? のうちの一人が、

「それならば、代わりの者を派遣しますので、どうかお帰りください」

やっぱり帰ってしまうのか? 彼女の不安は増大した。


 だが成瀬は、

「私はここに残って、後継者を育てなければならない。かつて一人、バイオビーストに殺されている。誰にでも務まる任務ではない」

きっぱりと言い切った。ひかるは安堵した。


「わかりました。それでは後日、後継者候補を派遣します。ほかに何か、ご要望はありますか?」

「スペース・シップの動力がダウンしている。新しいバッテリーと、兵器を補充してもらいたい」

「バッテリーは積載しているので、すぐに交換できます。スペース・シップはどこにあるのですか?」

「ちょっと時間がかかるが、この星の乗り物でご案内する」

 成瀬とひかるは、メン・イン・ブラック? の二人を車に乗せて、借り屋敷へと向かった。



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