14 涙

 ひかるは、『グレイトヒーロー』のことが心配で、会社を休んでいた。その間、ひたすら彼からの連絡を待ち続けた。


 戦いがすぐに終わるようなものでないことは、彼女にも想像がついた。それでも彼女は、何度も何度も時計を見ずにはいられなかった。スマホを手放さず、アパートの中をウロウロと歩き回るばかりだった。


 心配したかなからSNSで連絡があったが、正直に事情を説明するわけにもいかず、風邪を引いたと嘘をついた。が、訪ねて来られても困るので、たいしたことはないと付け加えた。


 だから、とうとうスマホに着信があったとき、しかもそれが『グレイトヒーロー』からであったとき、言い様もなく安堵したのだった。

「ごめん、時間がかかった」

 聞いた限りでは、彼は割と落ち着いた話しぶりだった。

「今、山から下りてきたところ。これからタクシーを拾って、駅まで行って、新幹線で帰る」


 あれ、普通の人間と変わらない移動方法だ、とひかるは思った。

「行った時みたいに、スーッと帰ってくるんじゃないんですか?」

「スペース・シップの動力が、完全にダウンしちゃったんで、もう空間転送してもらうことができないんだ。だから、普通の方法で帰るよ」

「超能力は使ったんですか?」

「使わないではいられない相手だったからね。またスッカラカンだよ」

 大変な戦いだったんだ、とひかるは悟った。


「気をつけて帰ってきてくださいね。何があっても、あなたの帰る場所はここなんですから」

「ありがとう」

「何か食べたいものはありますか?」

「そうだな、カレーと玉子焼きが食べたいな」

「作っておきますから、楽しみにしてくださいね」


 ひかるは、早速料理の準備に取りかかった。ポロポロと涙がこぼれてきて止まらなくなったが、それはタマネギを刻んでいるせいでは決してなかった。



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