衝突!侯爵様の側近とバトル勃発!?




 リュカは先ほどまでの穏やかな雰囲気から打って変わって、氷のように冷たく鋭い目つきとなり、武装した男たちへと言い放った。



「お前たち、何をしている。彼女を離せ」

「し、しかしっ⋯⋯!」


 武装した体格の良い男の中の1人が、震えながらもリュカへ意見する。


「二度も言わせるな。彼女は俺の大切な客人だ」


 リュカは尚も冷たく跳ね除けると、その男は可哀想なほどにブルブルと身震いし、アリスの身体を強く掴んでいた手を離した。その男性につられて、他の男たちも次々にアリスから離れていく。


 それを見届けたリュカが、申し訳なさそうな顔をしてアリスに声をかけた。


「⋯⋯アリス。突然すまなかった。彼らに変わって俺が非礼を詫びよう」

「う、ううん、私なら大丈夫よ。それよりも、侯爵って⋯⋯?」


 ——どういうこと。とアリスが問うと、リュカはキョトンとした後に、「忘れていた」と言ってアリスに向き直った。


「言っていなかったか。俺は——」

「このお方は、フランソワ家が次期公爵、リュカ・フランソワ侯爵だ。王家の血を引く尊い身分であり、お前のような庶民が話しかけて良い方ではない」


 先ほど、ものすごい形相でアリスを睨み付けてきた赤髪の男性が突然、2人の話に割って入る。彼は相変わらず、アリスのことを肉食獣のような金色の瞳をギラギラさせ鋭い眼差しで見ていた。


(こ、怖い⋯⋯! なんでこの人は最初から敵意剥き出しなの!?)



「⋯⋯リアムか」

「リュカ様、探しましたよ。貴方はすぐに迷子になってしまわれるのですから、オレから離れないで下さいとあれほど釘を刺しましたよね!?」

「⋯⋯アリス、紹介させてくれ。この男は俺の補佐を任せているリアム・フレイア。愛想は無いが根は良いやつなんだ。仲良くしてやってくれ」


 自らを咎めるリアムの声を華麗にスルーしたリュカは、淡々とアリスにリアムのことを紹介する。



「リュカ様! 聞いておられるのですか! それに、この女は誰です!?」

「この女、などではない。彼女は俺の命の恩人であるアリスだ。俺が危ないところを助けてくれたばかりか、こうして料理まで振る舞ってくれたんだ」


 リュカの言葉に驚いた表情になった後、リアムはギロリとアリスの顔を見る。心の内では「この女が?」と考えているであろう彼は、あからさまに不服そうな顔をしながら口を開いた。


「⋯⋯⋯⋯リュカ様を助けていただいたことには感謝する。謝礼なら後ほど言い値を払おう。もう下がって良いぞ」

「何を言っているんだ、リアム。アリスはこれから俺たちと共に行動するんだぞ。それに、我が屋敷に住まわせることにした」

「⋯⋯っ!?」


 リュカの言葉に、信じられないといった面持ちのリアムは驚いて声にならない声を上げた。


「しょ、正気ですか、リュカ様!! こんな、どこぞの馬の骨とも知れない女を側に置くなど、危険です! どうか、お考え直し下さい!」

「もう決めたことだ。異論は認めない」


 頑なに意見を曲げないリュカに、これ以上何を言っても無駄だと悟ったリアムは、ターゲットをアリスに変えたようだった。肩まで伸びた長い髪をなびかせながら至近距離までアリスに迫ってくる。

 そして、グイッと乱暴にアリスの顎を掴んだかと思えば、無理矢理に目線を合わせて声を潜めて言い放った。


「そのみすぼらしい格好を見たところ庶民と見受けるが、なぜ貴様のような女がリュカ様のお側にいることを許されたんだ? 今からでも遅くはない。無礼を働く前にリュカ様の前から消えるんだ」

「っ⋯⋯⋯⋯!」


(もう、我慢の限界⋯⋯!!)


 その時、アリスの中で今まで堪えていた何かがプツンと切れる音がした。

 キッと力の限りにリアムを睨みつけ、ワナワナと震える唇を開いた。


「さっきから初対面の相手に向かって礼儀がなってないのは貴方の方じゃないですかっ! 私は正式にリュカの依頼を受けて仕事を手伝うことになったんです! 絶対に成果を上げて、私の実力で貴方を認めさせてやりますから覚悟しておいてください!!」




✳︎✳︎✳︎




「⋯⋯うーん⋯⋯⋯⋯さっきは勢いで言いすぎちゃったかなぁ⋯⋯。明日の朝、追い出されたらどうしよう⋯⋯」



 あの後、アリスとリュカ、リアムたちは森を出てラルジュにあるリュカの別邸へとやって来ていた。

 今は、屋敷の案内をリュカにしてもらっているところだ。


「先ほどは見事だったぞ、アリス。リアムはあんな性格だからな。意見する奴は中々いないんだ。それに、あの時のあいつの驚いた顔といったら⋯⋯」


 クツクツと思い出し笑いをするリュカに、アリスは恨めしげな視線を向ける。


「まあ、そう怒るな。最終的な決定権は俺にあるんだ。だからお前は何も心配しなくても良い。それに、たとえ俺の仕事を手伝わなくともお前を追い出すことはしないから安心してくれ」


 不安げに揺れるアリスの瞳を覗き込んだリュカは、ポンと優しくアリスの頭に手を置いた。


「ありがとう、リュカ⋯⋯」



 月明かりに照らされた水面のように優しいリュカの瞳に、アリスは異世界に飛ばされて初めて出会ったのがリュカで良かったと心の底から思ったのだった。











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