シャルム村編

シャルム村の怪物




 裏庭でリアムと鉢合わせてから数日後——。

 アリスとリアムはリュカの執務室に呼び出されていた。


「さて、早速だが、またもやラルジュ地方のとある農村より討伐依頼が入った。今回は畑を荒らしたり食糧庫を襲うのではなく、奴らの目的は人間だ。今月になって、もうすでに3人やられている」

「そんな⋯⋯⋯⋯!」


(ラビナスボアの比じゃないくらい危険だわ⋯⋯!)


「村人たちを恐怖に陥れているそのモンスターは、ペガサスのような胴体と羽をもち、頭には2本の枝分かれした角があるらしい。また、常に群れで行動しているそうだ。よって、今回は数名の部下も連れて行く。急ぎの案件のため、準備が出来次第すぐに発つ予定だ。2人とも、頼んだぞ」

「「はい!!」」


 アリスはグッと気を引き締めて返事をする。ちらりと隣に立つリアムを見ると、彼もまた、やる気に満ち溢れているようだった。




✳︎✳︎✳︎





「アリス、手を」


 一足先に馬に跨ったリュカが、アリスに手を差し出した。アリスはその手を取り、リュカの後ろに腰を下ろす。


「怖くはないか?」


 不意にリュカが前を向いたまま声をかけてくる。アリスは暫しの沈黙の後、「⋯⋯大丈夫」とだけ口にすると、アリスの答えにフッと微かに笑ったリュカは手綱を握った。



 どうやら、今回の討伐には見た限り3人の部下を連れて行くようで、その中にはアリスを拘束しようとした男性もいた。彼はアリスと目が合うなり、気まずそうに顔を逸らす。


(もう気にしてないのに⋯⋯⋯⋯)


 アリスがそう思っていると、全員が馬に乗ったのを見計らってリュカが声を上げる。


「シャルム村までは半日ほどかかる予定だ。今回は未知のモンスターの討伐となるため、場合によっては命を落とす危険もあるだろう。皆、心してかかるように」


 そう言った後、リュカはアリスにだけ聴こえるような小声で囁いた。


「途中、休憩を挟むが疲れたら遠慮なく言ってくれ。無理はするなよ、アリス」

「⋯⋯うん、分かった」



 先頭にリアム、その次にリュカとアリス、その後ろを3人の男性たちが馬に乗って雪の積もった平野を駆けていく。





✳︎✳︎✳︎




 シャルム村に近づくに連れ、辺りは濃霧に覆われて視界が悪くなる。

 早朝に出発して、今はまだ太陽が出ている時間帯のはずなのに、まるで真夜中のように周囲は暗闇に包まれていた。

 今は、リアムが炎で道を照らしているおかげで、何とか前に進めている状況だ。


(さ、寒い⋯⋯。雪山の寒さなら慣れているけれど、これはそういうのじゃなくて⋯⋯なんだか嫌な予感がするわ)



 不気味な雰囲気の中、霧を突っ切るように5頭の馬が駆け抜ける。



 それから、30分ほど走るとようやく霧の中にぼんやりと灯りが見えてきた。近づくに連れてその灯りは大きくなり、周りにポツポツと小さな光が増えていく。



「シャルム村だ」


 それまで一言も発することなく先頭を走っていたリアムが呟いた。

 その言葉に、無意識に力んでいたアリスの身体から力が抜ける。


(油断しちゃ駄目よ、アリス。ここからが本番なんだから!)


 アリスは気を引き締めるため、片手でパチンと頬を叩いた。





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