討伐依頼!狩って狩って、狩りまくれ!!③





 ラビナスボアの足跡を辿る3人は昼間にも関わらず、薄暗い森の中までやって来ていた。サワサワと吹く風がいっそう、冬の森の薄気味悪さを増幅させている。


 食糧庫からラビナスボアの足跡を辿ってきた一行だったが、その足跡は途中で途切れてしまう。なぜなら、先ほどからちらほらと降る雪が、獲物の痕跡を薄くしていたからだ。



(何か⋯⋯手がかりは⋯⋯⋯⋯)


「あっ⋯⋯!」


 アリスが何かないかと辺りを見回すと、葉が落ちて痩せ細った木の根元に“ヌタ場”の形跡があった。

 ヌタ場とは、別名“ノタ場”とも呼ばれ、イノシシなどの動物が体についているダニなどの寄生虫や汚れを落とすために泥浴びをするスポットである。


(これは多分、ラビナスボアがここにいた痕跡だわ。おそらく、ラビナスボアとイノシシの習性は同じはずだから間違いないわね⋯⋯)


 アリスがヌタ場の前で考え込んでいると、少し離れたところからリュカを呼ぶリアムの声が聞こえてきた。


「リュカ様! こちらに獣道がありました!」


 リュカが指す先には、雪の上に幾つもの足跡がついており、まるで一本の道のようになっている獣道があった。



「行こう」


 そう言って、すぐさま獣道を確認したリュカは躊躇いもせずにどんどん奥へと進んでいく。

 すると、リュカの後ろに続いて歩くリアムが、不意にその後ろを歩くアリスの方を振り返った。


(⋯⋯⋯⋯?)



 不思議そうな顔をするアリスと目が合うなり、フフンとしたり顔をするリアム。「どうだ、オレの方がリュカ様のお役に立っているだろ?」とでも言いたそうな彼の憎たらしい顔を見たアリスは、まんまと挑発に乗ってしまう。



(む、ムカつく!! 私よりも歳上のくせに、一々行動が子どもっぽいのよ⋯⋯っ!)



 怒りに任せてズンズンと歩いていると、含み笑いのリアムが「地震か? ああ、なんだ。お前の歩く振動か」とわざとらしい口調で、リュカには聞こえないように囁いてきた。



「~~~~!!」


 アリスは、怒りのあまり声にならない声を上げる。



(このっ⋯⋯陰湿男!!)



 しかし、今のアリスには心の中で悪態をつくことしか出来ないのであった。





✳︎✳︎✳︎





 獣道を進んでいくにつれ、ジメジメとした嫌な雰囲気が徐々に強くなる。

 すると、リュカが緊張の面持ちで口を開いた。


「ここまで来たらもう、いつラビナスボアが現れてもおかしくないだろう。アリス、リアム。いつでも戦えるように準備しておいてくれ」



「かしこまりました!」

「わかったわ!」


 リュカの指示に、アリスとリアムは我先にと元気よく返事をする。2人の間には、バチバチと激しい火花が散っていた。



(っ⋯⋯て! こんなことしてる場合じゃないのに! 集中しないと!!)


 アリスは自らの両頬をパチンと叩いて気合いを入れた。

 そうして、落ち着きを取り戻したアリスは、薮の影で眠るラビナスボアの姿を見つける。



(いた————!)


 アリスは、目で2人に合図をしてから、出来るだけ音を立てないように銃の安全装置に手をかける。



 カチリ————。


 しかし、その僅かな音だけでも警戒心の強いラビナスボアを起こすのには十分であった。


 アリスたちの存在に気付いたラビナスボアは「ブモーー!!」と雄叫びを上げる。

 すると、それまで何もないと思っていた薮から、ガサガサと勢いよく大小様々な十数匹のラビナスボアが飛び出してきた。





✳︎✳︎✳︎





 ラビナスボアの群れに遭遇したアリス、リュカ、リアムの3人は、それぞれに武器を取り応戦していた。

 リュカは氷の魔力を纏わせた剣、リアムは炎の魔力を纏わせた槍で戦っている。



(流石だわ⋯⋯2人とも一撃で倒してる。イノシシはエサが手に入ったところを覚えていて、再び現れる可能性が高い。きっと、ラビナスボアも一緒だわ。これ以上の被害を防ぐには根絶やしにするしか⋯⋯⋯⋯)



 接近戦のリュカとリアムに対して、アリスはラビナスボアの群れから少し距離を取り、一匹一匹を確実に狙撃していく。1発の弾で確実に仕留めるためには、心臓を狙うのが手っ取り早い。


 実包を装填して射撃姿勢を取った後、スコープを覗き込む。

 スコープ越しに見えたのは、アリスに気付いてこちらに突進してくる中型のラビナスボアの姿だった。



(50メートル⋯⋯40、30 ⋯⋯⋯⋯)


 アリスは大きく息を吸い込んだ後、取り込んだ空気を全て吐き出す。少しでも照準のブレを無くすため、息を止めて引き金を引いた。



 パァンッ————!!


 銃声が辺りに響き渡り、程なくしてドサリとラビナスボアが倒れる。銃弾はアリスの狙い通り心臓を貫通したようで、傷口からはトクトクと血液が流れて真白な雪を汚していた。


 ふと、辺りを見回すと、先ほどまでは純白だった雪が今では辺り一面真紅に染まっていた。






✳︎✳︎✳︎





 ラビナスボアの群れを片付け終わったころ、不意に慌てたようすのリアムが口を開いた。


「リュカ様がいない!! また、迷子になられたのか!?」



 夢中で応戦するうちに、どうやらアリスとリアムはリュカと逸れてしまっていたようだ。「何たる失態!!」と頭を抱えるリアムを見たアリスは思わず笑ってしまう。


 アリスの反応が気に食わなかったリアムは、ジロリとアリスを睨みつけるが、何故か次第ににその表情は強張っていく。


(どうしたんだろう⋯⋯?)



「おいっ! 後ろ!!」

「っ⋯⋯⋯⋯!!」


 リアムの声で振り返ったアリスだったが、時すでに遅く、すぐ後ろにまでラビナスボアが迫っていた。


 ラビナスボアに突進される直前、アリスが最後に目にしたのは取り乱した顔で自らへと手を伸ばすリアムの姿だった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る