討伐依頼!狩って狩って、狩りまくれ!!②




 アリス、リュカ、リアムの3人はイヴェール村を目指して馬を走らせていた。


(ううっ⋯⋯想像以上に速い! 怖いっ! 揺れる⋯⋯!)



 生まれてこのかた馬に乗ったことのないアリスは、リュカの厚意に甘えて後ろに乗せてもらっていた。しかし、恐怖のあまり彼の背中に必死に縋りつく。



「アリス、大丈夫か?」

「う、うん。なんとか⋯⋯⋯⋯」


 ふと、俯くアリスの目にリュカが腰に下げている剣が目に入った。白と青の鞘には繊細だが煌びやかな金の装飾が施されおり、朝日を受けて輝くそれはいっそう美しく感じる。


 アリスたちの少し前を、ひとり馬に乗って駆けるリアムも背中に武器を背負っており、彼の持つ槍の赤と黒の柄にはリュカと同じように金の装飾が施されていた。


 アリスはうっとりとそれらを眺める。いつの間にか、先ほどまでの恐怖心はどこかへ飛んでいっていた。



「⋯⋯⋯⋯綺麗」


 思わずアリスの口から漏れた言葉に、リュカが反応を示す。



「ああ、この剣のことか。これは家の職人に作らせたもので、魔力を通しやすい特別な素材で出来ているんだ。そのお陰で俺たちは僅かな魔力消費だけで戦うことが出来るんだよ」

「不思議だわ⋯⋯。やっぱり私のいた世界と何もかも違うのね」



 半刻ほど馬を走らせていると、それまで一面雪景色だったところにちらほらと建物が見えてくる。


「リュカ様、イヴェール村に到着しました」


 そのリアムの声に、リュカは手綱を引いて馬を止めた。ヒョイっと軽やかに地面に降り立った彼は、馬上のアリスに向かって手を差し出す。


 その光景に、アリスは思わず「まさにお伽噺の王子様⋯⋯!」と口にしそうになるが、グッと堪えた。



「アリス、手を」

「う、うん⋯⋯」


 アリスは戸惑いながらも、おずおずとその手を取った。





✳︎✳︎✳︎




「フランソワ侯爵様、このような田舎までわざわざ御足労いただきありがとうございます」


 到着するなり、リアムに促されるまま入ったイヴェール村で一番大きな家では、村の長が待ち構えていた。彼はリュカの姿を見るなり、腰を低くして頭を下げる。



「それで、状況は?」

「は⋯⋯はい、それが、冬を越すために備蓄していた食糧がほとんどやられてしまいました。これでは皆、この冬を越せるかどうか⋯⋯⋯⋯」

「そうか。⋯⋯リアム」

「はっ! ⋯⋯では、侯爵領で余剰分の食糧をこちらへ回すよう手配します」

「ああ、頼んだ」

「こ、侯爵様⋯⋯! ありがとうございます!!」


 長はこれでもかというほどに深く頭を下げて、リュカへと感謝の言葉を述べる。彼は先ほどまでの強張った表情から幾分か柔らかい表情となり、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「当然のことをしたまでだ。しかし、元を絶たねば同じことの繰り返しだ。襲われたという食糧庫まで案内してくれ」

「かしこまりました⋯⋯!!」





✳︎✳︎✳︎





「ここが⋯⋯⋯⋯」


 扉を蹴破られ、無残にも荒らされた食糧庫を目の当たりにしたアリスは呆気に取られる。小麦やトウモロコシなどの穀物の入った袋は噛みちぎられ、干し肉や野菜はところどころ齧られて床に転がり踏みつけられていた。


「⋯⋯これは酷いな」

「痕跡を見るに、やはりラビナスボアの仕業と考えて良いでしょうね」

「この感じだと、1匹だけじゃなくて何匹もいるみたい」


 アリスは薄暗い倉庫で目を凝らし、足元に数え切れないくらいについている足跡を見て言った。

 すると、アリスの言葉にハッと足元を見たリアムが声を上げる。


「っそ、そんなことはお前に言われるまでも無く、オレにも分かっていた!」

「⋯⋯⋯⋯別にそこは競ってないわ」


 事あるごとに突っかかってくるリアムに、アリスは冷ややかな眼差しを向けて大きなため息を吐いた。


「勘違いするな! このような些細なことで競っているつもりは無い! 事実を述べたまでだ!」

「リアム、いくらアリスのことが気になるとはいえ大人気ないぞ」


 図星だったのだろう、興奮気味に捲し立てるリアムの姿を見たリュカが揶揄うように言った。


「リ、リリリリュカ様!? そのようなことは決してございません! オレはただ、この女がいつ本性を現してリュカ様に襲いかかっても良いように見張っているだけです!! リュカ様をお守りするのもオレの仕事ですから!」



(私は獣かっ⋯⋯!!)


 大真面目な顔で弁解するリアムの言葉に、アリスは思わず心の中で突っ込んだ。



「素直じゃないな」


 慌てふためくリアムに、リュカは微かに笑みを見せる。

 しかし、すぐに柔らかい雰囲気から氷のような冷たさを纏ったリュカは、おもむろに口を開いた。


「さぁ、おふざけはそこまでにして、そろそろ行くぞ」



 その一言で辺りの空気がピンと張り詰める。

 リアムも先程までの頼りない雰囲気から打って変わって真剣な表情になり、返事をした。


「はっ!」



 太陽が登り切ったころ、アリス、リュカ、リアムの3人は食糧庫から続く足跡を辿り、森の奥へと入っていった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る