イヴェール村編

討伐依頼!狩って狩って、狩りまくれ!!①




 異世界へとひとり、飛ばされたアリスの装備は、手には愛銃のチェシャ丸。身に付けているのは、ヒートテックに軽い素材のピンク迷彩のウェア。猟友会で配布されているオレンジのベスト(胸には狩猟者記章、中には今となっては使い物にならない無線機やスマートフォン、応急セット、ライター、ゴム手袋、ハンターマップなどが入っている)と帽子。腰にはシェルポーチ(銃弾を入れておくためのポーチ)、下はシンプルな黒のパンツ、背中にはバックパックを背負っていた。


 バックパックの主な中身はナイフ、ロープ、調味料一式、小鍋、昼食にするはずだったおにぎりと水筒、メイクポーチ、眠気覚ましのミントキャンディ、解体した肉を入れるためのビニール袋、銃カバー、メンテナンスセット、そして予備の実包。

 あとはこの世界では必要ないだろう鉄砲の所持許可証、狩猟者登録証などがパンパンに詰められいる。


 そして、一番肝心な残弾数はちょうどあと50発だ。まだまだ残っていると感じるかもしれないが、異世界で未知のモンスターを相手に戦うのだ。一度の戦闘で一体どれだけ消費するかわからないだろう。心の安寧のためにも、数は多いに越したことはない。



(恐らく、リュカの話を聞くにこの世界に銃は無い。⋯⋯大事に使わないとだわ)


 モンスター討伐を引き受けたは良いが、弾切れになっては本末転倒である。

 決して無駄撃ちはしないと、アリスは心の中で強く誓った。




✳︎✳︎✳︎




「それでは、さっそくだがこのリュカ・フランソワが乙狩アリスへと依頼しよう。本日未明、イヴェール村の食糧庫が荒らされたとの連絡が入った。この村は度々ラビナスボアが現れている地域だ。アリス、俺と共にモンスター討伐へ来てほしい」

「もちろんよ!!」


 太陽が顔を出して間もない頃、アリスはリュカの執務室に呼び出されていた。リュカより依頼を受けたアリスは二つ返事で了承する。

 しかし、それに異を唱えるものがいた。


「リュカ様っ! 本当にこの女も連れて行くのですか!? 到底役立ちそうには思えません!!」



 それは、同じくリュカに呼び出されたリアムであった。

 朝に弱いのだろうか、彼の髪にはところどころピョンと跳ねた寝癖がついている。リュカもそれに気付いているはずなのに何も言わないのは、それが日常茶飯事だからだろう。


「アリスは魔法が使えない代わりに、その手に持っている“銃”という武器で戦うんだ。リアム、お前も実際に目にすれば彼女の強さがわかるだろう」

「ま、魔法が使えない!? リュカ様、どういうことですか!」


 リュカの言葉に驚愕の表情を浮かべるリアムを見て、アリスはおずおずと口を開いた。


「信じてもらえないかも知れませんが、私、こことは別の世界から来たんです。私のいた世界では魔法やモンスターはお伽話の中の存在でした。でも、魔法が使えないからと言って、足手まといになるつもりは毛頭ありませんのでご安心ください」

「いっ、異世界人だと⋯⋯!?」


 続けざまに驚くリアムは「頭が痛い」と言って真っ青な顔をしていた。


(日本でいうところの、中間管理職ゆえの苦悩ってやつかしら。リュカからは無茶振り三昧で、部下からは苦情の嵐の板挟み状態⋯⋯。同情はするけど、私にだって譲れないものがある。家族も友達もいない、何の繋がりも無い私がこの世界で生き延びるためには、私に利用価値があるってことを証明しなければならない)



「今回、イヴェール村には我々だけで向かおうと思っている。期待しているぞ、アリス、リアム」

「⋯⋯かしこまりました、リュカ様」

「了解、任せて!」


 アリスは揚々と返事をする。今のアリスはやる気に満ち溢れていた。


(絶対に、足手まといなんて思わせないんだから!!)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る