ブランとノワールと、アリスの罪。②




「捨てるわけないじゃないっ」


 そんな言葉が思わずアリスの口をついて出る。



「「本当⋯⋯?」」


 しまった、と思った時には既に遅く、先ほどまでのしおらしさは何処へやら、ベッドの上でピョンピョンと跳ねる2人の姿があった。



「アリス⋯⋯お前⋯⋯⋯⋯」


 められたことに気付いて呆然とするアリスを、哀れみの視線で見つめるリュカ。


「分かってるわ⋯⋯。みなまで言わないで⋯⋯」

「⋯⋯獣人の子どもを育てるのは大変だぞ。奴らは好奇心旺盛こうきしんおうせいで悪戯好き。かく、手が付けられない」

「わ、私は一体⋯⋯どうすれば⋯⋯⋯⋯」



 アリスがすがるような目でリュカを見つめると、彼は大きなため息を吐いた後、口を開いた。


「仕方ない、乗りかかった船だ。出来る限りは俺も協力しよう」

「リュカ! ありがとう!!」



「お話は終わった?」


 それまでベッドのスプリングを楽しんでいた2人は、アリスとリュカの話が一区切りついた頃を見計らって、上機嫌なようすで声をかける。



「オレはブラン!」

「ボ、ボクはノワール⋯⋯」

「「よろしくね、アリス!」」


 白い少年と黒い少年は口々に名乗り、にっこりと愛らしい笑顔を見せた。


「ええ、よろしく⋯⋯」


 アリスは天使のような見た目とは裏腹に、意外にもしたたかな2人に振り回されるであろうこれからを想像して、うれいを帯びた声で返事をする。


 ふと視線をベッドへと落とすと、2人の腰には辛うじてシーツがまとわりついている状態で、アリスはどこを見て良いか分からずに視線をウロウロと彷徨さまよわせた。


(相手は小学生くらいの男の子⋯⋯。対して私は成人済みの女性。ヘタな行動を取れば捕まってしまうわ! 異世界で刑務所に入るなんて御免よ⋯⋯!)



 アリスの挙動不審なようすに気がついたリュカが口を開く。


「まずは服を調達しなければな。そのままではお前たちも困るだろう」

「「なんで⋯⋯?」」


 リュカの言葉に不思議そうに首を傾げる白い少年ことブランと、黒い少年ことノワール。


「獣人のお前たちには馴染みがないかもしれないが、人間にとって裸でいることは恥ずかしいことなんだ。ここに住むからには、こちらのルールに従ってくれ」


 その話を聴いたブランとノワールは、お互いの顔を見合わせて悪戯を思いついたようにニヤリと笑う。


「でもオレたち、昨日アリスの裸見ちゃったよ? ね、ノワール」

「そうだね、ブラン⋯⋯。一緒にお風呂入ったもんね」


「え⋯⋯?」


 アリスの脳裏のうりに昨日の光景がぎる。

 昨夜の出来事を鮮明に思い出したアリスの顔は真っ赤に染まり、再び、アリスの絶叫が屋敷中に響いたのだった。




✳︎✳︎✳︎




 アリスたちは屋敷の一角にある、物置き代わりに使われている部屋へとやってきていた。


「全く、お前は厄介ごとに巻き込まれる天才だな」


 これまでの経緯いきさつを説明すると、リュカと同じく哀れみの視線を向けてくるリアム。


「仕方ないじゃない⋯⋯。だって、あんなにかわいいのよ⋯⋯」


「「アリス!」」


 それぞれが選んだ服に着替えたブランとノワールは声を揃えてアリスのことを呼んだかと思えば、目の前でクルクルと回ってみせる。


「アリス⋯⋯見て」

「どう? オレたちかわいいでしょ?」


 リュカとリアムのお下がりを着たブランとノワールは、どこからどう見ても気品あふれる貴族の子どもにしか見えなかった。ふわふわの耳と尻尾がさらに2人の愛くるしさを増幅させている。



「2人ともとってもかわいいわ!」


 かわいいものと小動物に目がないアリスは、反射的にそう答えた。

 すると、ブランとノワールは嬉しそうに駆け寄り、小さな手でギュッとアリスの手を握る。


(成り行きでこんなことになってしまったけれど、そろそろ覚悟を決めなきゃならないわね⋯⋯。私が責任持ってこの子たちを育ててみせる!)


 こうして、アリスはよわい20にして2児の母代わりになったのだった。





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