2人の正体
アリスの提案から程なくして、ブランとノワールは猟犬になる為の訓練を受けていた。
「ブラン、ノワール! 次は走り込みよ!」
(“一犬・二足・三鉄砲”と言われるだけあって、2人がモンスター討伐を手伝ってくれれば、今よりもずっと効率よく仕事をこなせるわ。ブランもノワールも元々の知能は普通の猟犬と比べ物にならないくらい高いのだから、やる気さえ出してくれればなんら問題はないのだけれど⋯⋯)
「アリス~。オレもう疲れたよぉ」
「ボクも、休みたい⋯⋯」
不意に獣化を解いたブランとノワールはゴロンと雪の上へと寝転がる。
「ち、ちょっと2人とも! いきなりその姿にならないでって何度も言ってるでしょう!」
アリスはそう言って、念のため持って来ていたコートを急いで裸の2人にかけてやった。
「え~⋯⋯こんなの今更でしょ、ア・リ・スお姉ちゃんっ?」
「アリスも隣、来て⋯⋯」
(どうすれば2人はもっとやる気を出してくれるのかしら? ブランは活発的だけど飽き性、ノワールは内向的だけど忍耐強い。2人とも普段は似ているようでいて、それぞれ個性があるわ)
アリスはふと、とあるアイデアを思いつく。
「2人とも、聴いて頂戴。これからはそれぞれに合った訓練をしましょう。いきなり全てを完璧に出来るはずないものね。ブランが苦手なことはノワールが、ノワールが苦手なことはブランがカバーする。つまり、獲物の
「⋯⋯うん、それならやっても良いかも」
「ボクも⋯⋯」
「ふふっ、良かった。私たち3人一緒ならきっと、なんだって出来るわ!」
✳︎✳︎✳︎
仕事中のリュカとリアムは、訓練後、汗を流す為に風呂場に向かって歩く一行に
「アリス、訓練は順調なのか?」
リュカがそう話しかけると、アリスはパッと花が咲いたような顔で笑う。
「ええ、もちろんよ! 2人とも猟犬の素質があるわ!」
嬉しそうに話すアリスの言葉に違和感を覚えたリアムは、
「犬⋯⋯? 何を言ってるんだ、お前は。コイツらはどう見たって————」
「どーんっ!! リアムお兄ちゃん、遊んでー!」
言いかけたリアムに、白い少年が勢いよく突進してくる。不意を突かれたリアムは、
「お、おい。いきなり何なんだよ⋯⋯」
尻もちをついたリアムがそう言うと、ブランは声を潜めて口を開いた。
「アリスに余計な事言わないで」
「は⋯⋯?」
ブランの
「ブラン! ダメよ、いきなり抱きついちゃ!」
少し離れたところから、アリスの咎める声が聴こえた。
「オレたち、リアムお兄ちゃんに遊んで貰うからアリスはリュカお兄ちゃんとお話ししてて!」
(そう言うことか⋯⋯)
「ワーウルフは気高く、人には懐かない種族⋯⋯だったはずだが、お前たちは一体どこに野生を置いて来たんだ」
リアムの挑発めいた言葉を聴いたブランはニヤリと笑った。
「そんなの知らな〜い。アリスと一緒に居れるならなんだって良いもん。ね、ノワール?」
いつの間にか側にやって来ていたノワールに、悪い顔で同意を求めるブラン。
「うん、ブラン⋯⋯。アリスが勘違いしてるならそれで良いんだもん。ボクたちは
「お前ら、可愛くないな⋯⋯」
リアムは見目は
「おえ~っ! アリス以外にかわいいって思われても気持ち悪いだけだしっ。これまではともかく、今はオレたちの方がずっとアリスと一緒にいるし、これからもずーっと一緒だもん。オジサンたちは精々、遠くから指を咥えて見てればいいよ」
「今はまだ幼体だけど、すぐに大きくなってボクたちがアリスを守るから⋯⋯。そしたらオジサンたちはお役御免だね」
✳︎✳︎✳︎
リュカと話を終えたアリスが、ブランとノワールの名を呼ぶ。その声を聴いた2人の獣人は、耳をひくひくと震わせ、尻尾をブンブン振りながらアリスの元へと駆け寄って行った。
「リュカ様⋯⋯」
「ああ。聴こえていた」
「アリスは、とんでもない拾い物をしたようですね」
「⋯⋯⋯⋯」
リアムの言葉にリュカが返事をすることはなかった。彼は静かに感情の読み取れない碧の瞳で、仲睦まじく手を繋いで歩くアリスたちの後ろ姿を見つめていたのだった。
とりあえずこの章は終わりです。お付き合いいただきありがとうございました!
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