チェシャ丸のメンテナンスと残弾数




 イヴェール村での初仕事を終えたのが昨日のこと。アリスは、自らに充てがわれた部屋で愛銃であるチェシャ丸のメンテナンスをしていた。


(昨日は私と一緒にこの子もラビナスボアに吹っ飛ばされてしまったから、念入りに手入れしないと)



 アリスはまず、銃身の手入れから始める。洗矢(銃内部を清掃するための金属の棒)の先に専用の薬品を含ませたブラシをつけて、ライフリングの溝に付いている汚れを取った。そして、その汚れを洗矢につけた布で拭い去る。

 銃身の外側は、別の布にガンオイルを染み込ませて丁寧に拭いた。


 次に機関部の手入れだ。ボルトや遊底の先端などに付いている火薬カスやススをしっかりと落とす。また、外側に付いているゴミは丹念に取り除く。


 最後に手で触れた鉄部分はガンオイルを染み込ませた布で拭いて終了だ。



「このくらいかしら⋯⋯」


(昨日からのモヤモヤした感情が少し、軽くなった気がする。やっぱり、無心になれるこの作業は良いわね)


 チェシャ丸のメンテナンスを終えたアリスは、最後に軽くスコープの調整をしてから、乾かすために風通しの良い窓際に銃を置いた。



「後は⋯⋯一番肝心な残弾数ね⋯⋯」


 アリスはそう言って、ポーチを取り出し一つ一つ確認しながら数えていく。


 数えたところ、残る実包はあと41発。先の戦いで9発も消費してしまった。


(このペースで消費していると、あと数回で実包が底をついてしまう⋯⋯)



「一か八か、リュカに相談してみよう⋯⋯」


 アリスはため息とともに、そう吐き出した。




✳︎✳︎✳︎





「リュカ、忙しいのにごめんなさい。⋯⋯今、ちょっとだけ話せる?」

「ああ、アリスか。構わない。どうしたんだ?」


 アリスがノックの後、そろりと執務室の扉を開いてリュカに声をかけると、彼は書類から顔を上げて快く迎えてくれた。


 そして、事情を説明すると、リュカは深刻な顔をして考え込む。


「それは由々しき問題だな。どうしたものか⋯⋯」


 それを見たアリスは、とある一つの提案をする。


「あ、あのね、無理を承知で言うんだけど⋯⋯昨日、リュカたちの武器は特別な素材で出来てるって言ってたでしょ? この実包もそれで出来ないかな⋯⋯?」


 アリスはシェルポーチから取り出した実包をリュカの目の前に置く。

 彼は実包を手に取り、まじまじと見つめた。



「アリス、お前の考えはわかった。俺は剣以外の武器には明るくないからなんとも言えないが⋯⋯とりあえず、家の専属鍛治師に相談してみよう」

「っ!! リュカ、ありがとう!」


 アリスは安堵からホッと胸を撫で下ろし、笑顔でリュカに感謝を述べる。そのようすを見たリュカは、フッと軽く微笑んだ。


「それはそうと、アリス。昨日、お前たちが森で迷子になって俺と合流した辺りから元気が無いようだが⋯⋯リアムと何かあったのか?」

「えっ!? な、なんで⋯⋯⋯⋯?」

「わかるさ。お前ほど興味を惹かれる人間はそうそういないからな」


 それってどういうこと——。アリスがそう口にしようとすると、リュカは小さくクスリと笑って、アリスの言葉を遮るようにして口を開いた。



「明日の朝、屋敷の裏庭に行ってみると良い。きっと、良い事があるだろう」










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