絶品!ラビナスボアの角煮!①




 討ち取ったラビナスボアを土産に、イヴェール村へと帰還したアリスたちは、出迎えた村人たちから熱烈な歓迎を受ける。


 しかし、アリスたちが手にしているラビナスボアを見た村人たちは不思議そうな顔をしていた。そんな村人たちの疑問を代表して、朝に会った村の長がリュカへと質問を投げかける。



「侯爵様、これは⋯⋯一体?」

「俺たちが討ち取ったラビナスボアだ」

「ああ、はい。それについては感謝の言葉しか御座いませんが、何故それをここに⋯⋯?」

「これから調理して食べるからだ」

「「「え?」」」


 リュカの言葉に、長をはじめとするイヴェール村の村人たち、それにリアムまでもが目を丸くしていた。




✳︎✳︎✳︎





「ありがとうございます。大鍋はこちらにお願いします!」


 あれから、長の家に再びお邪魔したアリス、リュカ、リアムの3人はキッチンにいた。村中からありったけの大鍋を集めたアリスは、血抜きと洗浄を済ませたラビナスボアの肉をブロック状にカットしていた。


(それにしてもすごい量の肉だわ⋯⋯。まるで給食でも作っているみたい。こんなに大掛かりな調理は初めてだから緊張するわね⋯⋯)



「おい、次の奴寄越せ」


 そう言って、手を差し出してきたリアムに、少々気まずいながらもこれからカットする肉の塊を渡す。

 彼は長めの髪を一つに括ってエプロンをつけており、意外にもやる気満々なようだ。



「⋯⋯⋯⋯なんだよ?」


 危なげない動作で手早く肉をカットしていく姿をついつい凝視していると、視線に気付いたリアムが鬱陶しそうな顔をしてジトリとアリスを睨んで言った。


「⋯⋯な、なんでもないです」


 アリスがふいと視線を逸らしてそう言うと、リアムはフンと鼻を鳴らして作業へと戻っていく。

 すると、それまでジッと2人が調理するようすを見守っていたリュカが口を開いた。


「見た目からは想像出来ないと思うが、リアムも料理が得意なんだ」

「み、見た目⋯⋯。でも、フレイアさんの手際を見ていたらわかる気がするわ」

「昨日食べたアリスの手料理も絶品だったからな。今回も楽しみだ」


 そう言って、リュカは微かに微笑んだ。





✳︎✳︎✳︎




 ラビナスボアのブロック肉をめん棒で叩き、繊維を切って柔らかくする。その肉を全て一口大にカットした後は、多めの油をひいて表面のみを焼いていく。


 次に、あらかじめたっぷりの水を入れて火にかけておいた大鍋に、キツネ色までこんがり焼いたラビナスボアの肉を、臭み取りのために青ネギと薄くスライスした生姜とともにそこに投入する。



「次は1時間ほど下ゆでします。ここは私が見ているので、フレイアさんは休んでください」


 気付けば、いつの間にかリュカは姿を消しており、リアムとキッチンに2人きりという気まずさから、アリスは彼に休憩を取るように勧めた。



「⋯⋯わかった」


 そう返事をしたリアムは、ひとつに結んでいた髪をほどいて、着ていたエプロンを脱ぎ、静かにキッチンを去っていった。

 それを見届けたアリスは、ホッと息を漏らす。どうやら、先ほどまでは緊張で上手く呼吸が出来ていなかったようだ。


(フレイアさんには申し訳ないけど、これでやっと落ち着いて料理が出来るわ。煮込んでいる間に調味料を量ってしまおう)



 全ての調味料(出汁は肉が浸かるくらいで醤油、砂糖、みりんは1:1:1の割合、酒は出汁の8分の1)を別の大鍋に入れて火にかける。

 しばらく煮込んだ鍋のようすを見ると、そこにはラビナスボアの肉の脂がプカプカと浮いていた。気付けばキッチン内には肉の臭みが漂っていて思わず鼻を押さえる。


(換気しよう⋯⋯)


 キッチン内に漂う濃厚な獣の臭いに耐えかねたアリスはそう思い、窓を開ける。

 すると、ちょうど外からビュウと入ってきた風が、火と湯気で温まったアリスの身体をひんやりと冷やしてくれた。





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