ラビナスボア、実食!①
「ッ⋯⋯すまないが、食料は一緒にここに来た奴が持っているから俺は手ぶらなんだ⋯⋯」
アリスの腹の音で、鳥が一斉に飛び立つさまを目の当たりにしたリュカは、口元を押さえて震える声で言った。
(笑ってるのを隠そうとしてくれてるんでしょうけど、バレバレよ! いっそのこと、大笑いして欲しいわ⋯⋯!)
「それなら問題ないわ。⋯⋯だって、食料ならここにあるもの」
そう言って、アリスは未だほんのり赤みの残る顔で、先ほど仕留めたばかりのラビナスボアを指差した。その獣はでっぷりと肥えていて、相当に食べ応えがありそうだ。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
しかし、アリスが指差した先を見たリュカはポカンと口を開けたままフリーズしてしまう。
しばらくの間の後、リュカは信じられないものを見るような目でアリスを見て、ようやっと口を開いた。
「⋯⋯⋯⋯ま、まさかとは思うが、お前⋯⋯ラビナスボアを食うつもりなのか⋯⋯?」
「もちろん。ハンターは、討ち取った獲物は決して無駄にしないもの」
大真面目な顔をして揚々と語るアリスを見たリュカは、俯いてプルプルと肩を震わせたかと思えば、ついに耐え切れず吹き出した。
「はははっ⋯⋯! 本気か? 今までモンスターを食べようとした奴は見たことがないぞ⋯⋯! 異世界人は皆、そうなのか?」
「⋯⋯みんなかどうかは分からないけど、ハンターの間では常識よ。さすがにモンスターを食べたことは無いけれど⋯⋯見た目は私の知っている動物に似ているし、食べられないことはないでしょ! あっ⋯⋯そうだったわ! 実は、リュカと会う前にもう1匹仕留めてるの。そっちも解体しなきゃ!」
「これを一人でもう1匹⋯⋯? お前はつくづく頼もしい奴だな」
リュカは感心したといったような表情でアリスの顔をまじまじと見る。
普段、人からそんな視線を向けられることのないアリスは、照れくさくなりそっぽを向いてポリポリと頬を掻いた。
✳︎✳︎✳︎
「じゃあ、早速やりましょうか!」
アリスは先の戦闘で乱れた髪を結いなおした後、腕まくりをして意気揚々とナイフを手に取った。
現在、アリスとリュカの前には、討ち取ったばかりのラビナスボアが2匹いる。
アリスは、最初に仕留めた比較的小さなラビナスボア(血抜き済み)を手に取り、綺麗な雪をすくってゴワゴワと硬質な毛皮に付いた汚れを洗浄する。
次に、腹側にひっくり返して内臓を傷付けないように、表面にだけ切り込みを入れた。胸の方から腹の方へとナイフを滑らせて、肛門まで切り開いていくと、脂がのった真っ赤な肉が見える。
(良かった⋯⋯! 異世界のモンスターといえど、中身は私の知ってるイノシシとさほど変わらないわね!)
ラビナスボアという、未知の生物の臓物を目の当たりにしたアリスは、そのグロテスクなさまに若干の吐き気を催しながらもホッと胸を撫で下ろした。
空腹も限界に近づいてきたアリスは、丁寧にしかし素早く、筋を切って内臓を取り除き皮を剥いでいく。
先ほどから、アリスが慣れた手つきでモンスターを捌くさまを興味深そうにジッと見つめていたリュカは、不意に「俺にも、何か手伝えることはあるだろうか」と口にする。
彼の言葉にアリスは少し考えた後、口を開いた。
「うーん⋯⋯確か、リュカって魔法が使えるのよね? 火を起こすことは出来る?」
「ああ。それくらいなら容易い。任せてくれ」
リュカは大きく頷き、おもむろに枯れ枝を集め始める。そのようすを見届けたアリスは、自らも作業の続きへと戻ったのだった。
(※本来なら、肉の解体作業は専用の施設でやることの方が多いです。する方はいないと思いますが、衛生面や寄生虫等の問題もありますので、絶対に真似しないでください。)
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