ラビナスボア、実食!②
「火起こしは終わったぞ」
ラビナスボアの肉を解体し終わった頃、リュカがアリスに声をかけた。
「ありがとう、リュカ。こっちもちょうど終わったわ」
(うーん⋯⋯それにしても、ものすごい量のお肉だわ。流石に2匹分を2人だけで食べるのは無謀だから、今食べる分以外は持ち帰ろう)
そう思い、アリスは鞄から持ち帰り用のビニール袋を取り出して大量の肉を詰めていく。
「⋯⋯それで、一体何を作るんだ?」
リュカはワクワクと好奇心が抑えきれないといった表情でアリスに話しかける。アリスは、暫し考え込んだ後、口を開いた。
「ここはシンプルに塩だけで味付けして素焼きにしようと思っているんだけど⋯⋯どう?」
「まずは素材そのものの味を楽しむというわけか。うん、いいだろう」
「よかった。せっかくなら、あともう一品作りたいんだけど⋯⋯」
そう言って、アリスは鞄の中をゴソゴソと漁る。
(⋯⋯あっ。これとこれがあれば、“アレ”が作れるわね!)
そこで、とある調味料を見つけたアリスは、人知れずニヤリとほくそ笑むのだった。
✳︎✳︎✳︎
アリスとリュカは、火の前に座り一口大に切って串に刺したラビナスボアの肉を焼いていた。パチパチと火の粉を散らす炎は、昼間とはいえ冬風と雪で冷え切った身体をじんわりと温めてくれる。
「素焼きはリュカにお願いしても良い?」
「ああ。任された」
「ありがとう。その間に私は⋯⋯⋯⋯」
ニヤリと意味ありげに笑ったアリスは、鞄から小鍋と砂糖、醤油、そして生姜のチューブを取り出した。
「⋯⋯ん? まだ何か作るのか?」
「フフフッ! 絶対に美味しいから楽しみにしてて!」
不思議そうな顔をするリュカを横目に、アリスは薄く切ったラビナスボアの肉を、火にかけた鍋の中へと入れる。
(良い感じに脂が乗ってるから、サラダ油は要らないわね)
ジュウジュウと小気味良い音を立てる肉を箸を使って炒めていき、両面に焼き色がついたら醤油と生姜、砂糖を2:2:1の割合で投入する。
「~~~~♪」
機嫌良く鼻歌を歌いながら炒めていると、空腹中枢を刺激する匂いが風に乗ってアリスの鼻まで届く。
(うーん。良い匂い⋯⋯あっ⋯⋯いけない、ついヨダレが⋯⋯)
アリスは口の端から垂れそうになる涎を、慌ててじゅるりと飲み込んだ。
そうこうしているうちに、串焼きもこんがり焼き上がり、生姜焼きにもしっかりと火が通ったようだ。
✳︎✳︎✳︎
「いただきますっ!」
2人は焚き火の前に座り、手を合わせた。
アリスの持参した紙皿の上には、先ほど調理したラビナスボアの串焼きと生姜焼きがこれでもかと盛り付けられている。
御馳走を目の前にして再び、キュルキュルと悲鳴を上げる腹をなだめつつ、アリスは待ちに待った肉を口へと運ぶ。
(まずは、塩だけで味付けした串焼きから⋯⋯⋯⋯うん。思ったよりもアッサリとしていて美味しいわ。独特の臭みもあるけれど、それがまたクセになりそうね)
「さて、次はいよいよ生姜焼き⋯⋯!」
絶対に美味しいとは分かっていても、何故かドキドキと高鳴る胸を押さえながら生姜焼きを口へ運ぶ。
「ッ~~!!」
口に入れて噛んだ途端、じゅわりと口内に広がる甘い脂と鼻から抜ける生姜醤油の香りにアリスは頬を押さえて悶える。
(こ、これは⋯⋯! 最高だわっ! 生姜のお陰で肉の臭みが完全に消えているし、何よりご飯が進む味付けで永遠に食べ続けられる⋯⋯!!)
「これはまさに、無限ラビナスボア!!」
興奮したアリスが思わずそう叫んで立ち上がると、ジッと皿に盛り付けられたラビナスボアの肉を見つめるリュカの姿が目に入る。
「⋯⋯リュカ、食べないの? 美味しいわよ」
「あ、ああ。⋯⋯いただこう」
アリスが声をかけると、戸惑ったように返事をするリュカ。やはり、モンスターの肉には抵抗があるのだろうとアリスは思った。
しかし、意を決したリュカは、ようやっとラビナスボアの串焼きを食べる気になったようで、恐る恐る口元へと運んだ。
そして、一口食べたリュカはポカンと驚いた表情になる。
かと思えば、次はぎこちない動作で生姜焼きを口にする。
(リュカってば、どうしたのかしら? もしかして⋯⋯口に合わなかったとか⋯⋯?)
モグモグと静かに咀嚼するリュカ。
そのようすに何事かと思い、固唾を飲んで見守るアリス。
あたりが静寂に包まれる中、ゴクン、と飲み込む音が聞こえた。
「アリス⋯⋯⋯⋯っ!!」
アリスは不意に名前を呼ばれてリュカの方を見やる。気付けば、いつの間にかお互いの吐息がかかってしまいそうな距離にまで彼の顔が迫って来ており、碧の瞳をキラキラと輝かせていた。
そして、勢いのままにギュッと力強くアリスの両手を握ったリュカは、口早に語り出したのだった。
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