目覚めた先は見知らぬ森の中
「ん⋯⋯⋯⋯」
ツンツンと何か尖ったもので頬を突かれる感覚に、アリスはゆっくりと目を開いた。目の前には雲ひとつない青空が広がっている。
どうやら意識を失ってから、それほど時間は経っていないようだった。
「え! 私⋯⋯生きて、る⋯⋯!?」
鈍い痛みに耐えながらも、ガバリと勢いよく飛び起きたアリス。頬を突いていたものは小鳥のくちばしだったようで、突然起き上がったアリスに驚いた小鳥は空高く飛び立っていった。
歓喜も束の間、アリスは自身の愛銃であるチェシャ丸の無事を確認するために、真っ白な雪の上を見回した。
「チェシャ丸っ!!」
チェシャ丸はアリスから少し離れたところに放り出されていた。アリスが背負っていたバックパックもその側に転がっている。
アリスはズキズキと痛む身体に鞭を打って、愛銃の元へと駆け寄った。
真っ先にチェシャ丸を手に取り、銃身や機関部、銃床などを目を皿のようにして隈なく確認する。
「ああっ⋯⋯!! 銃床に傷が⋯⋯⋯⋯」
ショックのあまりアリスは力無く叫ぶ。愛銃のステンレスで出来た銃床には、小さな傷がついてしまっていた。それに、塗装もところどころ剥がれてしまっている。
「ごめんね⋯⋯チェシャ丸⋯⋯⋯⋯」
アリスは傷ついた箇所を優しく撫でながらその愛銃へと謝罪の言葉を述べる。
ショックを引きずったままのアリスは、バックパックも確認したが、鞄は僅かに傷んでいたものの、中身には問題無かった。
(とりあえずは無事なようね⋯⋯でも、チェシャ丸は一刻も早く手入れしたい⋯⋯⋯⋯)
安堵に深く息を吐き出し、落ち着いて辺りを見回したアリスはあることに気付く。
自身が転がり落ちた急斜面が何処にも見当たらないのだ。目に入るのはどこまでも真っ白で平坦な景色のみで、アリスにはどうやってここまでたどり着いたのか記憶がなかった。
(どういうこと!? 意識を失っているうちに相当な距離を移動してる⋯⋯? でも足跡が無いわ⋯⋯。上から落ちでもしない限り、この状況はありえない⋯⋯⋯⋯)
雪の上についている足跡は今しがたアリスがつけたものと所々にある小動物のもののみで、そのことにアリスはますます混乱した。呆然とするアリスは、銃を抱えながらぼーっと広い空を見上げる。
「はっ! こんなことしてる場合じゃない!」
しばらくの間、まっさらな空を見上げていたアリスは不意に声を上げ、上着のポケットを弄ってスマートフォンと無線機を取り出した。
(さっきは繋がらなかったけど、もしかしたら今度こそ————)
一縷の望みに縋り、まずはスマートフォンの電源を入れる。しかし、そこには圏外の文字が。
「やっぱり、ダメか⋯⋯⋯⋯」
想像していた通りだったため、ショックは少なかった。軽く息を吐き、次は本命の無線機の電源を入れる。
しかし、それも先ほどと同じようにザァザァという音が聞こえるのみで、繋がるようすはなかった。
「う、宇佐美さん⋯⋯⋯⋯」
涙ぐんだ声で、かの先輩の名を口にしたアリスは、地面に力無くへたり込んだ。
(これからどうしよう⋯⋯。私、このまま死んじゃうのかな。まだまだやりたいこと、たくさんあったのに⋯⋯⋯⋯)
その時、絶望の淵にいるアリスの耳には「ブモーッ!!」という獣の雄叫びと、ザッザッザと雪の上を駆ける足音が届く。その音はどんどん近づいてきており、どうやらこちらに向かっているようであった。
「⋯⋯!!」
弾けるように立ち上がったアリスは、腰につけているシェルポーチから弾を取り出し、薬室に1発と空の弾倉に2発の実包を込めた。
安全装置を外し射撃準備が整ったアリスは、照準がブレないようにとゆっくりと深呼吸し、呼吸を落ち着かせる。
そして、逸る心をどうにか鎮めながら射撃姿勢を取り、音のした方へと銃口を向けた。
「え——!?」
驚きに声を上げるアリスがスコープ越しに見たものは、未だかつて見たことのない動物の姿であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます