自分を信じて





(フレイアさん!! なんで⋯⋯!?)


 リアムは部下であるモハメドの危機に、それまで相手取っていた中型のペリュトンの心臓をひと突きし、迷うことなく彼の元に駆け寄った。


 そして、すぐに向かい来るペリュトンに反撃しようとするが、リアムの槍は倒したペリュトンに突き刺さったままであった。それならばと、彼は直に魔法で応戦しようとする。

 しかし、その魔法も森の一画を照らす為に相当な魔力を消費したためか、プスプスと小さな炎しか出ずガス欠状態であった。



「くそっ⋯⋯!」


 吐き捨てるようにそう言ったリアムは、脅えるモハメドを庇うようにして覆い被さった。


「リアム!!」


 そのことに気付いたリュカが駆け寄ろうとするも、大型のペリュトンはそれを阻むように攻撃の手を休めることはない。



(————今、2人を救えるのは私しかいない)


 そう思ったアリスは、辺りを見回す。リアムの魔力が底をつきそうな今、辺りは再び暗闇に包まれ、うっすらと霧が漂い始めていた。

 視界が悪ければ、いくら命中率に自信があるアリスと言えども外してしまう可能性が高くなる。それに、すぐ近くではリュカも戦っており、撃ち損じでもすれば大惨事だ。



(本来なら、絶対の自信がなければ引鉄を引くことは許されない。でも、今⋯⋯私がやらなければどうなるか、子どもでも分かることだわ)



 もしも、リュカやリアム、モハメドを撃ってしまったら————。

 そんな不安が頭を過ぎるがアリスはそれをすぐに振り落とし、己を鼓舞するために呟いた。


「何よりも大切なのは、信じること。もしも失敗したら、なんて自分自身に呪いをかけてはいけないわ。自分で自分を信じてあげなきゃ、成功なんて絶対に掴めないんだから⋯⋯!!」



 もう、迷っている時間は1秒たりとも無かった。


 アリスはスコープ越しにペリュトンの頭を捉える。未だ炎の灯りがうっすらとあるとはいえ、夜闇の暗さと霧で視界良好とは言えない。しかし、それでも己を信じて引き金に手をかける。


「フレイアさん! モハメドさんっ! 動かないで下さい。今から撃ちます⋯⋯!!」



 そう叫んだアリスは、意を決してチェシャ丸の引き金を力いっぱいに引いた。



 ————パァンッ!!



 再び静かな森に銃声が響き渡る。

 ギャアァァァとペリュトンの断末魔が聴こえたかと思うと、ふらふらと数歩歩いた後、バタリと雪の上に倒れる。


 見ると、ペリュトンの角はうつ伏せでモハメドに覆い被さるリアムの背中に突き刺さる寸前であった。それを仰向けで目の当たりにしたモハメドは力なく声を上げる。



「ひっ、ひいぃぃぃ⋯⋯!!」

「おい、モハメド。落ち着け」


 未だパニック状態のモハメドに対し、意外にも冷静なリアム。


 その頃、ちょうど一等大きなペリュトンを倒したリュカが2人の元へと駆け寄る。


「無事か、リアム! モハメド!」

「はい! 問題ありません、リュカ様!」

「は、はいぃ⋯⋯⋯⋯」



「よっ⋯⋯よかったあぁ⋯⋯!!」


 全員の無事を確認したアリスは、安堵から深く息を吐き、ずるずると地面にへたり込んだ。


(上手くいって本当に良かった⋯⋯!!)


 アリスが思わず涙目になり、顔を伏せていると頭上から声が聴こえてくる。


「おい、貴様!!」


 顔を上げると、そこには険しい顔をし、仁王立ちしているリアムの姿があった。



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