和解





「おい、貴様!!」


 仁王立ちをしたリアムは、険しい顔で座り込むアリスに声をかけた。

 ビクリと肩を震わせたアリスは、その迫力に圧倒されつつも、なんとか足腰に力を入れて勢いよく立ち上がる。


「はっ、はい! なんでしょう!?」


(なんでフレイアさんは怒ってるの!? もしかして、自分たちに当たる可能性があったのにそれでも撃ったことにご立腹とか⋯⋯!?)


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 アリスは慌てて返事をしたが、肝心のリアムはむっつりと黙り込んでしまっている。


(えっ! 本当に何なの!? 怖い怖いっ⋯⋯!!)


 不可解なリアムの態度に、アリスはブルブルと震え上がる。



「⋯⋯⋯⋯っ⋯⋯た」


 しかし、よくよく耳を澄ますと俯き加減のリアムは、彼らしからぬボソボソとした小声で何かを呟いていた。リアムの表情は長い前髪に隠れてしまいよく見えない。



「⋯⋯え?」

「っ⋯⋯だからっ! 先ほどは助かったと言っているんだ!!」

「⋯⋯⋯⋯!!」


 予想外のリアムの言葉にアリスはポカンと口を開ける。

 リアムは一度口にしたことで吹っ切れたのだろうか、いつもの調子に戻ってぶっきらぼうに話し始めた。


「⋯⋯あの時は咄嗟にあいつを庇ったが、魔力切れを起こしているオレにはどうすることも出来なかった。だから⋯⋯オレたちを救ってくれたことに感謝する。それに、此度の戦闘でお前の実力も充分に理解した」

「⋯⋯っ! じゃあ⋯⋯!!」

「ああ、オレは約束は違わない。お前を認めよう。⋯⋯⋯⋯アリス」


 最後の方の言葉は再びボソボソと小さく消えてしまいそうな声量であったが、アリスの耳にはしっかりと届き、初めて名前を呼んでくれたことに思わず頬が緩む。


「⋯⋯! ありがとうございます、フレイアさん!!」

「リュカ様がお前を気にかける理由も分からなくはない気がするな⋯⋯」


 リアムは困ったような笑みを浮かべ、ぽつりと呟く。


「え? それってどういう⋯⋯」

「なんでもない、気にするな。それと、オレのことはリアムで良い。これからは対等な立場でリュカ様の為に身を粉にして働くのだから、堅苦しい敬語も必要ない」

「ええっ!? わ、わかりました⋯⋯じゃなくて、分かったわ! 改めてこれからよろしくね、リアム!」

「ああ。⋯⋯だが、勘違いするなよ。リュカ様の隣はオレのものだ! 側近の座は絶対に渡さん!」

「ええ~⋯⋯そんなもの狙ってないわよ⋯⋯」


 アリスが呆れ顔で言うと、リアムは「そんなものとは何だ!」と顔を赤くして憤る。


 すると、少し離れたところで事の成り行きを見守っていたリュカが声をかけてきた。


「アリス、良かったじゃないか。リアムと仲良くなれたんだな」

「うーん⋯⋯仲良くなれたかは分からないけれど、前よりは距離が近づいたのかも⋯⋯?」

「自分に厳しい分、他人にも厳しい態度になってしまうから誤解されやすいが、リアムは仲間思いの良い奴なんだ。どうか仲良くしてやってくれ」

「もちろんよ! それに、リアムが仲間思いの優しい人だってことはさっきの出来事で充分に理解出来たわ」

「⋯⋯⋯⋯そうか」


 リュカはそう言って、ふわりと微笑んだ。


(私からすれば、リュカだって仲間思いの優しい人だと思うのだけど、気付いてるのかしらね⋯⋯?)





「さあ、帰ろう」


 昼間の敗北から一転して、僅かに明るい声でリュカが言った。彼の言葉に、皆が弾んだ声で答える。


 真夜中の戦闘から幾分か時が経ち、いつの間にか優しい朝日が森を照らしていた。

 一行は足取りも軽く、討ち取ったペリュトンを手土産にシャルム村への帰路につくのだった。

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