サクサクジューシー!ペリュトンの唐揚げ!?①





「皆様! ご無事で何よりです!!」


 霧が晴れた森を抜けると、麗かな陽射しが照らす林道に差し掛かる。そこで、4人の姿を見るなり駆け寄ってきたのは今回の依頼人であるシャルム村の長、ジョセフであった。



「こんなところにいては危険だろう」


 リュカがやんわり咎めると、ジョセフは眉を落として「皆様のことを想うと居ても立っても居られず⋯⋯」と言って笑みを見せる。


「気持ちは有難いが、我々はシャルムの民を守る為にペリュトン討伐に来たのだ。お前が襲われては本末転倒だろう」

「も、申し訳ございません。ですが、お二人が側にいて下さったので⋯⋯」


 ジョセフは後にいる2人の護衛騎士を見た。2人はアリスと目が合うと、ぺこりと軽く頭を下げる。



「それで、その⋯⋯ペリュトンは⋯⋯⋯⋯」


 聞きづらそうに伏し目がちでそう尋ねてきたジョセフの視線は、ロープで繋いでいる6頭のペリュトンに釘付けだった。


「ああ。見ての通り、森にいたペリュトンは殲滅した。今後は奴らに脅かされること無く、平穏無事に暮らせるだろう」

「あ、ありがとうございます!! これで父も⋯⋯村の皆も報われます!」


 ジョセフは勢いよく頭を下げる。何度も何度も感謝の言葉を述べる彼の瞳には涙が浮かび、それが頬を伝って雫となりポタポタと雪の上へと落ちていった。





✳︎✳︎✳︎





「ええっ!? ペリュトンを使った料理!?」


 ジョセフはあんぐりと口を開ける。



「はい。せっかく討ち取った獲物なので、美味しく調理しようかと。ですので、調理場を貸していただけませんか?」


 アリスが恐る恐る伺うと、ジョセフは面を食らいつつも快く了承してくれた。


 ジョセフにアリスたちが使っていた空き家の厨房を貸してもらうことになり、案内をしてもらうことに。しかし、何故だかリュカやリアムまで後を着いて来る。



「アリス、今度は何を作るんだ?」


 微かに碧の瞳を輝かせ、アリスに尋ねるリュカ。


「唐揚げよ!」


 アリスが得意げにそう言うと、「からあげ⋯⋯?」と繰り返してリュカは首を傾げた。


(もしかして唐揚げはこの世界に無いのかしら⋯⋯? あんなに美味しい食べ物を知らないなんて悲しすぎるわ! それなら、私がこの世界の唐揚げ伝道師になってみせる!)


 そう思ったアリスは、早速唐揚げを布教するべく、手短にアピールポイントを述べる。


「私の生まれた国のソウルフードなの。お肉に衣をつけてたっぷりの油で揚げた、さっくさくでジューシー! ほっぺたが落ちるくらい美味しい料理よ!!」

「そうか、それは楽しみだな。よし、それなら俺も手伝ってやろう」


 キラキラと目を輝かせて唐揚げを語るアリスを見てフッと微笑んだリュカは、豪華な装飾が施された上着を脱いで腕をまくり、手伝いを申し出る。しかし、アリスとリュカの間にズイッと割り込むようにしてリアムが話に加わった。


「いいえ、リュカ様! そのようなことはこのオレが!!」

「俺もたまにはアリスの手伝いをしようと思ったんだが⋯⋯」

「リュカ様にもしものことが有れば一大事ですから、そういったことはオレにお任せください! さあ、アリス! 何をグズグズしているんだ。一刻も早くリュカ様に唐揚げなるものをお出しするぞ!!」

「え、ええ⋯⋯⋯⋯」


 どういうわけかやる気満々のリアムは、アリスの腕を掴み、グイグイと引っ張り歩き出す。

 強引なリアムに連れられて厨房に入る間際、視線を感じて振り返ったアリスが見たのは悲しげなリュカの表情であった。




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