初めての味と涙




「あ、あのっ⋯⋯僕も食べてみても良いでしょうか⋯⋯?」


 恐る恐る手を挙げたのはジョセフだった。ペリュトンを食べるということに驚いていた彼だが、実際にリュカが美味しそうに食べているところを目の当たりにして、興味が湧いたのだろう。


「もちろん! どうぞ」


 アリスがそう返事をすると、ジョセフは嬉しそうな顔をしていそいそと山盛りの唐揚げの元へと駆け寄った。


 ふと部屋を見回すと、端の方で居心地悪そうにしているモハメドたちの姿が目に入る。アリスはリアムと一緒に作ったペリュトンの唐揚げを、共にシャルム村を守った3人にも食べて欲しいと「よかったら皆さんもどうぞ」とだけ声をかけて、その場を去った。




「こ、これは!!」


 ペリュトンの唐揚げをフォークに刺し、一口食べたジョセフが声を上げる。


「ジョセフさんっ! ⋯⋯どうしました?」


 アリスが声をかけると、ジョセフは身体を小刻みにブルブルと震わせていた。


(もしかして、美味しくなかったのかしら⋯⋯?)


 不安に駆られたアリスがリアムの方をちらりと見ると、リュカの傍にいる彼もまた、ジョセフの声に驚いてこちらを凝視していた。



「⋯⋯い⋯⋯です」

「え⋯⋯?」

「美味しいです⋯⋯!! さっくさくの衣と噛むたびに旨みが増すお肉⋯⋯! 一見、脂っぽいはずなのにそこまで重さを感じないのは何故でしょうか⋯⋯。フォークが止まりません! まさか、あの憎きペリュトンがこんなに美味しい揚げ物に変身するとは、驚きました!」


(不味いのかと思ったわ⋯⋯! 良かった⋯⋯)


 アリスはほっと胸を撫で下ろす。

 すると、それまで夢中になって唐揚げを頬張っていたジョセフが気付けばフォークを置いており、またもやフルフルと肩を震わせていた。



「⋯⋯父さん⋯⋯⋯⋯」

「!!」


 掠れた声が聴こえジョセフを見ると、彼はそう呟きながら静かに涙を流していた。気丈に振る舞ってはいたが、アリスとそう年齢の変わらないであろう彼は、ある日突然村を率いる長となり相当な無理を重ねていたのだろう。緊張の糸が切れたのか、突然帰らぬ人となった父の名を幾度も口にしていた。


 アリスがオロオロしていると、しばらくの後、ジョセフは涙を拭って「情けない姿を見せてしまい申し訳ございません」と言って赤くなった目でアリスに笑いかける。



「あの⋯⋯大変恐縮なのですが、こちらの唐揚げを少しだけ分けていただくことは出来ませんか? こんなに美味しいものを僕1人だけ味わうのは申し訳なくて⋯⋯村の皆にも食べさせてやりたいのです」

「⋯⋯もちろんです! まだまだたくさんありますから、好きなだけ持っていってください! ね、リアム?」

「ああ、好きにすると良い」


 いつの間にか側に来ていたリアムも、喜びを隠せないようすで頷いた。


「ありがとうございます!!」



 再び唐揚げの元に駆け寄るジョセフの後ろ姿を見送って、アリスは口を開いた。


「私たちも食べましょうか」

「ああ。リュカ様も絶賛された唐揚げとはどれほどのものか⋯⋯楽しみだ」







すみません、思ったより長くなってしまいました。次こそ終わります!

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