シャルム村との別れとモハメドの後悔
「レモンを絞ってもさっぱりとして食べやすいんだな」
リアムとともに談笑しつつペリュトンの唐揚げを食べていると、背後から声をかけられる。振り向くと、そこにはモハメドの姿があった。
「すみません、アリスさん。今、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん!」
アリスは了承の返事をした後、リアムに一言断りを入れてからモハメドについて部屋を後にする。廊下に出て少し歩いた頃、モハメドがピタリと足を止めて振り返った。
「先ほどは助けていただき、ありがとうございました!」
勢いよく頭を下げたモハメドに、アリスはポカンと呆気に取られる。
「え? あ、あのっ⋯⋯頭を上げてください⋯⋯!」
しかし、モハメドは頑なに頭を上げることはなく、低姿勢のまま話を続ける。
「いえ、本来なら貴女と顔を合わせることも許されないのです。アリスさんと初めてお会いした際に、私はとてもひどい態度を取ってしまいました。そのことをずっと謝りたいと思っていたのですが、中々機会に恵まれず、こんなにも遅くなってしまいました」
「そんなこと⋯⋯もう気にしてないですし、リュカを守るためだったんですよね?」
「どのような理由があろうとも、女性に対して⋯⋯それも主人のお客人に対して無礼な態度を取ったことは許されないことです。⋯⋯それなのに、アリスさんはモンスターの前で怖気付いてしまった騎士としても情けない私を助けてくださいました。どれだけ感謝しても足りないほどです」
モハメドの誠意と後悔がひしひしと伝わってくる。アリスも彼に誠意を持って応えようと、口を開いた。
「⋯⋯モハメドさんのしたことは正しいと思います。本音を言えば、少しだけ怖かったけれど⋯⋯もう気にしていないのも本当のことです。それに、目の前に困っている人がいれば助けるのは当たり前のことですから⋯⋯でも、モハメドさんのお気持ちは嬉しいです。ありがとうございます」
アリスの言葉を聴いたモハメドは、おもむろに片膝をついた。
「私の主はリュカ・フランソワ様ただ一人ですが、もしも貴女に危険が迫った時には、私が貴女を守る盾となりましょう。私などでは役不足かもしれませんが⋯⋯それが私に出来る唯一の恩返しです」
ようやく頭を上げたモハメドの明るいブラウンの瞳と目が合う。彼はアリスの瞳を真っ直ぐに見て優しく微笑んだ。
✳︎✳︎✳︎
「この度は本当に、本当にありがとうございました! 春になればこの村ではそれなりに大きな祭りが開かれるのです。よろしければ次は遊びにいらして下さいね」
「ああ、考えておこう。また、モンスターによる被害があれば速やかに知らせるように」
リュカはそう言って、見送りをするジョセフや村人たちに背を向けて歩き出した。彼に続いてリアムやモハメドたち騎士も歩き出す。
(リアムには認めて貰えたし、モハメドさんとは少しだけ歩み寄れた気がする⋯⋯。今回の任務は大成功ね)
アリスは心の中でガッツポーズをしながら、リュカたちが待つ村の入り口へと走り出したのだった。
次回からは短いですが新章と、新キャラ登場予定です!
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