怪鳥ペリュトン現る!②




「確か、この辺りです」


 ジョセフの案内の元、アリスとリュカ、リアムの3人は最後にペリュトンが現れたという場合に来ていた。

 ちなみに、一緒にシャルム村まで来たリュカの部下たちは村に残って、村にペリュトンが現れた時のために備えて待機している。



 ペリュトンが目撃された付近を調査していると、ゆっくりと辺りが濃霧に包まれていくことに気付く。

 シャルム村は元々、霧に包まれた土地ではあったが、今は数歩先も見えないほどの視界の悪さである。


(これではチェシャ丸を使えないわ⋯⋯)


 不安に駆られたアリスがチェシャ丸をギュッと握りしめると、霧に包まれた森の中で、何処からか女性のような甲高い獣の鳴き声が聞こえてきた。



 ——フィーヨ⋯⋯⋯⋯フィーヨ⋯⋯。


 

 アリスには、その鳴き声に聞き覚えがあった。


(鹿の鳴き声⋯⋯? 確か、これは縄張りを主張するときの鳴き声だったはず)



 鳴き声が聞こえたかと思うと、すぐに近くでガサリと枝が揺れる音がして、一頭の大きな羽を持つ四足歩行の動物が姿を現した。



「⋯⋯っ! こいつです!!」


 その姿を見たジョセフが声を上げる。そんな彼の顔は真っ青で、今にも倒れてしまいそうなほどに血の気が引いており、身体はブルブルと震えていた。



「リアム!」

「はっ!」


 ペリュトンと思わしきモンスターの姿を確認するなり、リュカとリアムは攻撃体制に入る。一瞬、遅れつつもアリスも猟銃を構え、怯えるリックを守るようにして前に立つ。


 しかし、不可解なことにペリュトンは武器を向けられても怯えたようすも無ければ、逃げ出す素振りも見せなかった。



 2人が互いに顔を見合わせて目配せをする。リュカの合図にリアム頷き、2人が一斉に斬りかかった。


「「⋯⋯!?」」


(どういうこと⋯⋯!?)



 確かに2人の攻撃は通ったはずだが、驚くことにペリュトンには傷ひとつ付いてはいなかった。


「⋯⋯リアム、もう一度だ」

「かしこまりました、リュカ様!」


 絶望的な状況であったが、それでも2人は諦めず果敢に攻撃を続ける。

 リュカが今度は氷の魔力を纏わせた剣で攻撃する。しかし、先ほどと同じくペリュトンに傷を負わせることは出来ず、悔しそうに唇を噛んだ。


「くっ⋯⋯!」

「リュカ様、お任せください!」


 次こそはと、リアムが炎の魔力を纏わせた槍で攻撃するが、まるで遊んでいるかのようにヒョイっと避けられてしまった。


「くそっ⋯⋯!」


 何度攻撃してもまるで、幻影のように刃がスッと通り抜けてしまうことに焦燥感を覚える3人だったが、一向にペリュトンが攻撃してくるようすはなかった。




 ——フィーヨ⋯⋯フィーヨ⋯⋯⋯⋯。



 どうやら、アリスたちの前に姿を現したペリュトンは、今回は人間を襲うつもりはなく、警告をしに来ただけのようですぐに姿を消した。


 ペリュトンの姿が消えた途端、辺りに広がる濃霧も晴れる。



 呆然とするアリスとリアムに、リュカは「帰ろう」とだけ声をかけた。


 2人は、それに力なく頷くのだった。





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