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「……」

「どうした?」

「いっ、いえ。なんでも……」


 そう取り繕って見たところで私の視線を追えば「何に固まっているのか」はすぐに分かってしまうだろう。


 ――いや、だって……。


 私だって「意外にたくさんの人が参加するんだなぁ」とは思っていた。しかし、まさか……二つのブロックに分けても文字が見えない程たくさん参加するとは思ってもいなかったのだ。


「会場は四つに分けられていて、トーナメント制だ。決勝は翌日に行われる予定でそれぞれのブロックで一位になったヤツと当たる」

「……それも、毎年恒例?」

「ああ。まぁ、スムーズに進む場合と膠着する場合があるから、あくまで『予定』って事になっているけどな」

「そうなる事も覚悟しないといけないのね」

「一応、深夜までは行わないって決まりにはなっているけどな」


 シリウスはそう言って笑っているが、結局のところは「その当日になってみないと分からない」という事らしい。


「それにしても、こうして改めてトーナメント表を見ても……何も分からないわね」

「まぁ、そうだよな」


 参加申し込みを終え、その後に発表されたトーナメント表を見ても、そこには『名前』しか書かれておらず、言ってしまえば「それしか分からない」という状態だった。


 ――学校での試験とかだとある程度相手の事が分かっている状態だったけど。


 今回はさすがにそうはいかない様だ。


 ――それに、結構大きなトーナメントだからひょっとしたら知り合いが出るかも……なんて思っていたけれど。


 少なくともザッと見た感じではいなさそうだ。


 ――まぁ、ほとんどの人が貴族だし。出る側というよりは見る側か。


 基本的に貴族の全員が血気盛んというワケではなく、むしろ高みの見物をする様な連中の方が多い。


 ――名誉とか名声とか……本当は『その人の家』であって、歴史であってあくまでその人個人の評価じゃないんだけど。


 中にはそれを勘違いしてしまっている人もいる。


 ――それに、お金にも困っていないだろうし。


 だから、貴族が来るとすればそれは『参加者』ではなく『見物人』としてだろう。


「そういえば……去年準優勝したペアなんだけどよ」

「何?」

「いや。噂によると、実は一人は王子だったんじゃねぇかって」

「……そう」

「いや、あくまで噂だけどな」


 シリウスとしては「あり得ないよな」というつもりで話したのだろう。しかし、私は何となく「そうじゃないか」と思っていた。


 ――何せ主人公はサポート系の光魔法。でも、他の『四大魔法』も使える。


 一応、国立の魔法学校に通っている身だ。主人公はいくら学校の中で劣等生だったとは言え、多少は出来ないと話にならない。


 ――変装は……アイテムでも使ったのかしらね。


 実はゲームの中でもこういった「おしのび」といった場面があり、その時に活躍するアイテムが存在する。


 ――ただ、購入じゃなくて自分で作らないといけないんだけどね。


 しかし、実はこのアイテムは持続時間が決まっており、シリウスの言う様に「噂が立った」という事は、効果が切れてしまったところを誰かに見られてしまったのだろう。


 ――それでも大きくならなかったのは……。


 見られた相手が庶民だったか、取引をしてどうにか出来る相手だった……という事なのろう。


 ――どちらにしても、お粗末な話ね。


 そんな見え透いた変装をしてまで何か欲しいモノがあったのだろうか。


 ――でもまぁ、コレは良い話を聞いたわね。


 主人公と元婚約者がそこまでのリスクを冒してまでこのトーナメントに参加した理由は謎だ。

 廃嫡となり、実家の後ろ盾を失った今でなら、金銭に困っている可能性はある。しかし、当時はその線は薄いだろう。


 でも、私はそんな元婚約者の事なんかよりも、シリウスの話の方が重要で、そしてそれが本当であるのであれば「私たちが優勝する可能性がものすごく高い」という希望が持てた。

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