3
「かっ、家庭教師?」
「そう」
――聞かされていなかったのかしら?
シリウスの態度を見る限り、どうにもそう思えてならない。
――あ、でも。私が了承するか分からなかったから、言わなかったかも知れないわね。
「あっ、あんたみたいな公爵家の令嬢がか?」
「あら? 何かご不満?」
そう尋ねると、シリウスは「いっ、いや。ねぇけど」と口ごもる。
「ただ意外だと思っただけだ」
「意外?」
シリウスは「ああ」と言いながら立ち上がり、ズボンについた土を払う。
「あんたは……いや、あんたの家はなんだかんだ有名だからな」
「……そう?」
「自覚ねぇんだな」
「?」
苦笑い……というより、呆れているような表情で「はぁ」とため息をつきながら私を見る。
――まっ、まぁ。確かに色々としている自覚はあるけれども。
そこまで「目立つ」といった事をしているつもりはない。
「まぁいい。それより、なんであんたみたいな人間が俺の家庭教師になるって話になったんだ?」
「え? しばらくの間、ここでお世話になるから、その『お礼』に……といったところかしら?」
「は? お礼?」
「ええ。というより、あなた知らないの? 私がここにいる理由」
一応「王太子殿下が一方的に公爵令嬢との婚約を破棄した」という事は、貴族の中では結構な話題になっていてもおかしくない話だと思っていた。
「いや、それは知っているけどよ。それにしたって俺の家庭教師役がお礼って」
「それだけあなたの成績が悪いって事よ」
私がストレートに言うと、シリウスは固まる。
「でも、正直な話。今のあなたの練習風景を見て思ったんだけど……」
「なんだよ」
「あなた、基礎はちゃんと出来ているのよね」
「そうかい」
シリウスはそっぽを向きながら答えたけれど、それは決して「照れ隠し」などではない。
――何と言うか「だから困っている」みたいな感じね。
「でも、四大魔法の出力はイマイチ……と」
「ああそうだよ。だから毎回困ってんだよ」
そう言ってシリウスは頭をかく。
――コレは……相当困っているのね。
シリウスの通っている学校に「留年」という制度はないけれど、その代わりに「退学」はある。
――二年の時は基礎だけでどうにかなったみたいだけど。
先程アンディさんからも聞いたとおり、三年生になるとやはり「そうも言っていられない」という事なのだろう。
「でも、あなた。本当は自分で分かっているんじゃない?」
「は?」
「あら、だって私は今『四大魔法の』って言ったのよ? それってつまり『他の魔法』なら……話は別って事じゃない?」
私が笑顔で詰め寄ると、シリウスは後ずさりをしながら「こっ、言葉のあやってやつじゃねのか」と私から視線をそらす。
――この反応は……自覚ありね。
シリウスの反応を見て、私は自分の仮説が正しいという結論に達した。
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