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「うっ、ぐぐぐ……」

「こんにちは」


 私が声をかけると、シリウスは「うわっ!」と声を上げて後ろにのけぞり、そのまま倒れた。


「なっ、え。誰だ!?」


 シリウスが倒れてしまったために、私は見下ろす様な形になった。


 ――あら。


 そして改めてシリウスを見ると……本当にアンディさんを若くした見た目をしており、アンディさんは基本的に「いつも笑っている」様な『糸目』なのだが。


 ――この子はそうじゃないのね。


 髪の色はアンディさんより少し薄い黒で、その目も同じように黒い。


 ――でも、アンディさんは「何を考えているか分からない」って雰囲気があるけれど、この子は比較的「素直そう」って感じがするわね。


 一応「この子」という表現をしたものの、シリウスと私の年齢に大きな差はない……はずだ。


 ――だって、私は一年制で彼は三年制の学校に通っている二年生だし。ああでも、それはシリウスが入学試験を受けられるとされている最低年齢で受けている場合だけど。


 そう、一応魔法学校には「受験可能年齢」というモノがあり、特例以外は基本的に受験出来る年齢が決まっている。


 ――まぁ、大体の人は受験が出来る年になったら受かろうが落ち様が「とりあえず受ける」って感じなのよね。


 ただ、合格率は毎年受験者の二割程度となっている上に、先程の様に「とりあえず受ける」という人だけでなく「今年こそ!」という人も多いため倍率もとんでもない事になっている。


 ――でもまぁ。殿下と私が受験して合格した時は……。


 それはそれは周りから色々と言われたモノだ。


 ――最初でこそ殿下も真面目に勉強していたんだけど。


 卒業間際には主人公にぞっこんで勉強に身も入らず、ただ『ナルシスト』という性格も相まって「実戦で目立とうとする」という悪癖が出る様になっていた。


「……」


 そのせいで魔法の実戦授業では、殿下と組んだ生徒は「王子だから」と殿下を立てようとしたり、忖度をしたりして……とにかく迷惑そうにしていた様に思う。


 ――でもまぁ、そんな横柄な態度を取っていれば……ああなるのも納得ね。


 そうして思い出されるのはお父様が言っていた「サーシャが図書室にいたと証言した」という話だ。


 ――まぁ、何も嘘は言っていないからいいんだけど。


 それも今となっては「過去の話」である。


「ひょっとしてあんた」

「ん?」

「サーシャ・グレイブか?」

「? ええ。そう言うあなたは『シリウス・クロムエル』ね?」


 そう言うと、シリウスは「あっ、ああ」と驚きの表情のまま尻餅をついた様な状態で頷いた。


「それじゃあ、改めて初めまして。私は『サーシャ・グレイブ』よ。これからあなたの家庭教師になるから、よろしくね」


 私がそう言って笑顔を向けると、シリウスは「は?」と呆けた様な顔で固まっていた。

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