3
「おかえりなさいませ。お嬢様」
「……ただいま。アンナ」
いつもと変わらない態度で出迎えたメイドにそう言うと。
「お疲れでしょう。今日はお早めにお休み下さい」
優しい声色で答える。
「……ありがとう。そうするわ」
そんな彼女の心遣いに感謝しながら私はゆっくりと自室へと向かう。
「……」
『アンナ』は、ずっと笑顔でいたり表情が豊かだったりするタイプのメイドではない。
――でも、決して「無関心」ってワケじゃないのよね。
ついさっきまで周りの冷たい視線に晒されていた私は……とても暖かい気持ちになった。
――どちらかと言うと、声の調子で感情を表すタイプなのよね。アンナって。
彼女は、私が小さい頃から私の専属メイドとして、ずっと仕えてくれていた。
「……」
――でも、きっとこの関係も変わってしまうわね。
正直、ここでため息をついたり弱音を吐いたりしたいところだった。
けれど、アンナは「私のため息や弱音」に過剰に反応するところがある事を知っていた私はそのまま浴室へと向かった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――それでは、ゆっくりお休み下さいませ」
着替えと入浴を終え自室に戻った事を確認し出て行こうとするアンナに対し、私は「アンナ」と言って呼び止める。
「?」
当のアンナは「なんでしょう?」と言わんばかりにキョトンとしている。
――この表情を見ても「無表情で怖い」なんて言う人がいるのよね。
現に、ゲームをプレイしていた時は私も「このメイド、怖い」と思っていた人間の一人だった。ゲーム上の『アンナ』と言えば、サーシャの命令を受ければ、基本的に「何でもする」というタイプのメイドだったからだ。
――でも、それはあくまで「お嬢様の役に立ちたいから」っていう純粋な気持ちからなのよね。
「いつもありがとう」
そう言うと、アンナは「いっ、いえ。ゆっくりとお休み下さいませ。何かございましたらお知らせ下さい」と言って一礼して出て行った。
「あれは……照れていたわね」
言っていた内容はいつもと変わらないモノだったけれど、一瞬。言葉に詰まっていたところをみると……そう思えてしまって、私は思わず笑いだしそうになった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ」
そして一人になった私は大きなベッドに寝転びながら深いため息をついた。
「……」
元々、私たちが出会ったのは、お金がなく一人で決して「綺麗」とは言えない服でお腹をすかせて倒れていたところを、小さい私が助けた事がきっかけだった。
『そうだ! 行くところがないのなら、私のメイドになればいいのよ!』
なんて、小さい頃の私は「良い事を思いついた!」といった様子でお父様にワガママを言って、アンナを専属のメイドにした。
――私はゲームでその事を知っていたから、てっきり「無理矢理」メイドにさせられたのはないと思っていたけれど。
私が前世の記憶を思い出したばかり時に、アンナの事を少しだけ知っていた。
ただ、実際の事情は私の考えていた事とは違って、彼女は決して「無理矢理」ではなく「自分の意志」でサーシャに仕えていたのだと言う。
――でも……。
こうしている今もお父様が国王陛下と今回の一件について話し合いをしてくれているとは思うけれど、多分。私は「処刑こそされなくても、国外追放くらいはされるのではないだろうか」と思っている。
「そうなったら……」
――アンナともお父様ともお別れね。
それを考えると……思わず涙が流れてしまう。
――でも「新しい人生の始まり」だと前向きに思えば……それで良い。
私はそう前向きに捉える事にして、そのまま寝た。いや、寝ることが出来た。多分、自分で思っていた以上に疲れていたんだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます