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「……」

「……」


 無言で私とお父様は向き合ったまま馬車に揺られていた。


 本来であればあの『卒業パーティー』に親族などが参加する事はなく、卒業生のみの参加のはずだ。


 ――それなのに、お父様がここにいるという事は……多分、察していたのね。


 最後に実家に帰ったのは、学校を卒業する二ヶ月ほど前。お父様はその時から私を気にかけてくれていたのだろう。


「サーシャ、すまなかった」

「いいえ。お父様は何も悪くありません」


 私は視線を下に向ける。


 ――むしろ、こうして謝ってくれるだけでも素晴らしいわ。本当ならこういった場合……ゲームだったら勘当しているだろうから。


「私が……悪かっただけですから」


 そう自分に言い聞かせるように小さく呟く。


 ――出来る限りの事をしようと頑張ってみたけれど……ダメだったって事よね。


 そもそも「全てが遅かったから」とも思ったけれど、今更いくら考えたところでどうしようもない。


 分かっている事は『婚約者である殿下に婚約破棄をされた』その事実だけである。


 ――やっぱり、私が『悪役令嬢』だから……って事よね。


 私は思わずそれを考えてしまう。


「……」


 そう私『サーシャ・グレイブ』は、実は『転生者』で、この世界を舞台とした『マジカル・ナイト』というゲームをプレイしていた女子高生だったのだ――。


◆  ◆   ◆   ◆   ◆


 ――あれ、でもこのゲームって……本当はもっと長かった様な?


 でも、そんな事は今更どうでもいい。


 そもそも、私が前世の記憶を思い出したのが「遅かった」という事もそうだったけれど、もっと問題だったのは……。


 ――主人公も『転生者』で「ゲームをプレイした事があった」という事よ。


 小さい頃に思い出していれば、まだ対処のしようがあったかも知れないけれど、そもそも思い出したのが……学校の卒業まで残り三ヶ月だった。


 ――普通であれば「三ヶ月もあれば」となったかも知れないけれど。


 しかし、実はその時点で私は『悪役令嬢』としての役割を十二分に発揮して王子に目をつけられている状態だった。


 ――しかも、記憶を取り戻した後も「悪目立ちしないように」とか「イジメない様に、普通に」と心がけても、なんだかんだ悪い結果になっちゃったのよね。


 私としては「良かれ」と思っていても、結局は「全て私が悪い」となってしまうのだ。


 ――コレが「ストーリー補正」というモノなのかしら。


 前世では乙女ゲームだけでなく、今の私の状況を模したかのような「異世界転生」をテーマとした『悪役令嬢』モノもよく見ていた。


 ――私が見ていたモノのほとんどの『悪役令嬢』はみんな幸せにしていたんだけど。


 今回は主人公も私と同じ転生者という事もあってか、その物語と同じように……とはならなかったらしい。


「全く殿下は……何を考えているのか」

「……」

「ワシはこれから王宮へと向かい国王と話をしてくる。サーシャは家でゆっくりとしているといい」

「はい、分かりました」


 そう言うと、お父様はもう一度「すまないな」と疲れた様子で言い、先に王宮へと着いたお父様を下ろした。


 ――まぁ、卒業パーティーの後はそのまま家に戻るつもりだったし。


 学校では寮生活だったけれど、その荷物は既に実家に送ってある。


「はぁ、疲れた」


 一人馬車に残った私はお父様の言葉に甘えてそのまま我が家へと馬車を向かわせたのだった――。

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