『悪役令嬢』でしたが、ワケあって魔法指導をする事になりました。

黒い猫

第1章 元『悪役令嬢』婚約破棄される

1


 煌びやかに彩られた装飾品が並べられた会場に高級な料理。そして、その会場にいるのはこれまた煌びやかに着飾った男性や女性。


 ――あー、やっぱりこうなるんだ。


 こういった場所に相応しいのは「ダンス」や「素晴らしい演奏」だと思うし、ついさっきまではそうだったのだけれど……。


「サーシャ・グレイブ! お前との婚約を破棄する!!」


 そう大々的に宣言したのは、この国の第一王子『リオン・ディーク』である。


 銀色の髪に青い眼の文字通りの「美少年」といった見た目ではあるが、その性格は「自分が一番」の『ナルシスト』だ。


 そして、たった今。婚約破棄を宣言されたのは私『サーシャ・グレイブ』だ。


 ――でも、正直なところ。何もこのタイミングでしなくても良いでしょうに。それこそ、二人の時とか……。


 それこそ伝えられるタイミングはたくさんあったはずだ。


 思わずそう言いたくなったけれど、多分「このタイミングだからこそ」わざわざ言ったのだろうと考え直した。


 ――だって、今日じゃないと大々的に宣言できないモノね。この『卒業パーティー』が開かれるタイミングじゃないと……ね。


 本来であれば今は卒業式を終えたばかりの『パーティー』が開かれている真っ直中で、王子の隣にいるのは私のはずだった。


 ――大方「私がイジメをした」とかそういう事を言うつもりなのかしら。だって殿下の隣に「あの女」がいるもの。


 チラッと視線を向けると、そこには勝ち誇った様な表情を浮かべる令嬢『ロゼリア・ミリシャ』がいる。


 ――本当「今の自分の表情を見てみたら?」と言いたくなるほどの悪人顔ね。


 私とリオン殿下は元々、幼少期に親同士が決めた『婚約者』という関係だった。決して冷え切っている関係だったワケではなかった。


 ――それが、この『国立魔法学校』に入学してから全てが変わってしまったのよね。


 それまでは私と王子は仲良くやっていて「この人との将来」を考えるくらいには……慕っていた……はずだった。


 ――でも、それももう……終わりね。この状況じゃ、さすがに。


 多分、このタイミングで婚約破棄をする事を決めたのは殿下自身だろう。これほど注目を集める機会などなかなかない。


 ――そこら辺は『ナルシスト』だから何となく分かるわ。


「お前は――」


 なんて思っているのも束の間、殿下は婚約破棄を宣言した後に「決まった」と言わんばかりに格好を付けて、さらに言葉を続けようとしたが……。


 ――はぁ、面倒くさいわね。


 こうなっては私が何を言っても無駄なのだろう。それがたとえ自分に見覚えがあろうがなかろうがご託を聞く筋合いはない。


 ――それに、婚約破棄については後日改めて連絡があるでしょうし、ここに私が必要はないわよね。


 そう、いくら殿下が言おうが元々は親同士が決めた婚約だ。つまり殿下の一存でどうこう出来る様な話ではない。


 ――そこら辺が抜けているみたいだし、それに何より。


「分かりました」

「……は?」

「ですから、分かりました。婚約破棄の件ですよね? 了解致しました。詳しい話はまた後日という事で――」


 ――そんな話、誰が黙って聞きますか! 婚約破棄ならさっさとすればいいわ!


 思わず私は心の中で毒を吐いた。


「私はこれで失礼致します」


 私は口早にそう言って礼儀正しくお辞儀をすると、呆然としている王子……だけでなく他の上位貴族の男性たちも置いてその場を去った。


◆  ◆   ◆   ◆   ◆


「……」


 足早に会場を後にした私だったけれど、ある程度歩いたところで足を止めた。


 ――それにしても、あの女。殿下だけじゃなかったじゃない!


 ついさっき、私に婚約破棄を殿下が宣言した時。殿下や彼女の周りには他に男性が数人おり、その男性たちは私を睨みつけていた。


 ――大方、あの女から色々吹き込まれていたんでしょうけど。


「はぁ」


 深くため息をつきつつ歩き出すと……あっという間に会場の出口についた。


「……」


 ただ「婚約破棄宣言」をされてすぐに出て来てしまったのは……失敗だったかなと少し後悔していた。


 ――でも、私の話なんて聞いてくれそうになかったし、聞くに耐えない話が始まりそうだったし。


 ふとついさっきの事を思い返したところで、私は思わず舌打ちをしたい気持ちになった。


 ――さすがにこの場で舌打ちをするワケにはいかないでしょうね。


 なぜなら……。


「サーシャ」


 パーティー会場の出口の近くで私を出迎えのは……お父様だった――。

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