第7章 元『悪役令嬢』尋ねる

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「……はい、終了!」

「はぁ……終わった」

「お疲れ様。すぐに採点して、休憩した後に『四大魔法』の『火』と『風』の基礎魔法をやるわよ」

「ああ、分かって……いますよ。ははは」


 ――本当は「分かっているって」とか言いたかったんでしょうね。


 しかし、彼の後ろにはアンナが控えているのだが、その彼女がシリウスの言動に目を光らせているのだ。


 ――まぁ、本当は試験監的な役割をして欲しかっただけなんだけど。


 要するに、座学の試験中の彼がカンニングなどしない様に見張って欲しかったというだけなのである。


 ――でもまぁ。


 私は自作してシリウスに解いてもらったテストの答案用紙を見ながら丸を付けていく。


 ――ここら辺は、前世の学校と何ら変わらないのよね。


 テストは基本的に『呪文』を中心として作っているが、中には上級魔法や集団で魔法を使う際に理解しておかなければいけない事項も加えてある。


 ――本来『サポート系統』は集団で使う時に役立つ事が多いらしいんだけど、シリウスの話や書物を見た限り『闇魔法』は……相手が集団の時に役に立ちそうなのよね。


「……」


 シリウスも「奪う」と表現したのもそういった側面からだろう。


 ――それにしても……。


 チラッとシリウスとアンナの様子を見ると、シリウスは何やら落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見回し、アンナはそんなシリウスをジッと見つめている。


 ――こっ、怖いわぁ。アンナ。でもまぁ、アンナが目を光らせているのって彼の言動が原因なんでしょうね、多分。


 思い返してみると、シリウスは私と会った時から敬語など気にせず普通に話していた。それが「私を公爵令嬢と知らずに」というよりは「彼のいつも通り」だったのだとは思うけれど。


 ――さすがにアンナの前じゃ通じなかった様ね。


 ちなみにアンナを試験監として呼んだのは、彼女が「不正などを見抜くのに長けている」と思っていたからである。


 ――この家の執事でもメイドでも良かったのだけど。


 やはり自分の家のご子息となると、ちょっとばかりの「甘え」が出ないとも限らないと考えた。


 ――まぁ、その可能性もごくわずかな気がするけれど。


 そう思うのはにこやかな笑みでアンナとシリウスを見つめる執事さんがいたからである。


 ――本当に穏やかな笑顔だわぁ。


 普通であれば、何かしらのアクションくらいありそうなモノだが、執事長『モリソンさん』曰く「坊ちゃんはあまり社交の場の経験がございませんので、こうした機会は大事なのです」という事らしい。


 ――要するに、この機会に敬語や態度も一緒に学んで欲しいって事ね。


 そう考えると、確かに我が家とクロムエル家の意見は一致していたのだろう。


「……」


 ――モリソンさんなら……何か知っているのかも知れないわね。シリウスが無意識に魔法の威力を押さえてしまう理由。


 私は丸付けを終えた答案用紙を見ながら不意にそう思った。

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