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 ――さっきもこの辺りは見たけれど……。


 やっぱり首都で見ていた様な豪華絢爛で煌びやかな装飾品などは見られず、首都にいる貴族たちが好むような絵画もあまりない。


 ――その代わり、花瓶が多い様な気がするわね。


 それはさっき部屋で窓を開けて見ていた景色に写っていた緑の中に『庭』もあった。


 ――庭の大きさは可愛らしい感じだったけど、珍しい品種の植物とかありそうね。


 なんて思いつつ執事とメイドの後について行くと、この家の中で一番大きな扉の前で立ち止まった。


「?」


 私は不思議に思っていると、執事はその扉をノックした。


「どうぞ」


 そう答える声が聞こえ、それを合図に扉が開かれる。


「旦那様。お連れしました」

「お、来たね」


 ――ん? 若い?


 部屋に入っていないためまだ姿は見えないモノの、聞こえてきた声は予想していたよりも「若い」という印象を受けた。


「お通しして」

「はい」


 その言葉を受け、私は部屋へと入った――。


「お久しぶりです、私は『サーシャ・グレイブ』と申します」


 いつも初対面の人に言う様に自己紹介をして顔を上げると、そこには長い髪を一つにまとめた中性的な見た目の男性が立っていた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「そうだね。久しぶり、サーシャ。僕の事は……覚えていないよね」


 そう言って少し寂しそうな表情を見せる。


「もっ、申し訳ありません」

「ううん、良いんだよ」


 男性は「むしろそれが普通の反応だから」と笑顔で答える。


「あ、そうだ。僕の名前は『アンディ・クロムエル』と言います。よろしくね。サーシャ」

「よろしくお願いします」


 笑顔で自己紹介をするアンディさんに対し、私も笑顔で答える。


 ――それにしても、随分と若いわね。


 しかし、お父様の話を聞いた限り「私の小さい頃だけでなく、お兄様の小さい頃も知っている」らしく、それを踏まえて考えるとそれなりの年齢のはずだ。


 ――だってお兄様は、私と十歳差だし。


 そして、そのお兄様も私と同じく魔法学校を卒業し、今はお父様の仕事を継ぐべくお父様の補佐をしている。


「? どうかしたのかい?」

「いっ、いえ! 何でも」

「そうかい? そうだ、立ち話もなんだからお茶をしながら話をしようか」

「……」


 アンディさんはそう言ってイスに座るように私を促し、私はその申し出を受け、座った。


「聞いているんだろう? 僕が君に会いたがっていたって話」

「……はい」


 その言葉の裏に、私は「何かあるのではないか」と思っていた。


「まぁ、そこまで構えなくて良いよ。ちょっと『お願い』があるだけだから」

「……」


 ――私としてはその『お願い』が気になるんだけど。


 既にお父様から『提案』という形で話は聞いているけれど、その内容までは聞いていない。


「どうぞ」


 そんな私たちの張り詰めた空気を変える様に、メイドは私たちの前にお菓子を。執事の方は紅茶を置き、私だけでなくアンディさんもそれに「ありがとう」と答えた――。

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