第3章 元『悪役令嬢』お願いされる

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「ここね」

「はい」


 周囲の建物と比べると、大きな門の向こうに見えるその建物は頑丈な上に高級そうに見える。


 ――でも。侯爵家という位を考えると……。


 首都にいる貴族たちの方が住んでいる屋敷の方が大きく、中には庭が広すぎて門の向こう側が見えずに屋敷の全貌が分からない……なんて事も多い。


 ――まぁ、首都の貴族は位に関係なく見栄を張りたがる傾向が強いし。


 そして、その見栄を張り続けた結果。収集がつかなくなり、悪い方向に行ってしまい、没落してしまう貴族もいる。


 ――質素倹約家……なのかしら?


 ただ、それはあくまで「貴族」という事を踏まえてであって、その周りの家と比べると、全然違う。


「!」


 そうこうしているうちに門が開かれ、馬車はゆっくりと進み……あっという間にクロムエル家の前についた――。


「さて……と」


 ずっと座りっぱなしだった事もあり、ゆっくりと馬車から降りて軽く伸びをしていると、屋敷の中から執事服を着た初老の男性が現れた。


「ようこそいらっしゃいました。サーシャ様」


「……」


 物腰柔らかい口調とお辞儀の後の笑顔。


 ――それに加えて眼鏡って……かっ、完璧な「理想の執事」ね。


 その執事を見た瞬間。私は思わずその執事が前世で思い描いていた「理想の執事」そのもので、思わず感激してしまった。


「先にお部屋の方へ案内させて頂きます。どうぞこちらへ」

「えっ、ええ。ありがとう」


 その執事はアンナが持ちきれない荷物を軽々と持ち「どうぞこちらへ」と私とアンナを部屋へと案内した――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「こちらになります」


 執事に案内されるがままついて行くと、二階の部屋へと案内された。


「どうぞ」


 そう言って執事はドアを開け、私は部屋へと足を踏み入れた。


「いつも過ごされているお屋敷と比べると、せまいかも知れませんが」

「いえ、そんな事ないわ」


 申し訳なさそうにいう執事に対し、私はすぐにそれを否定した。


 ――学校では寮生活だったし。


 魔法学校ではその身分に関係なく『魔法』の才能があれば通う事が出来、また学生は全員寮生活をする事になっている。


 私は「それに」と言いながら部屋の窓を開けると、そこには緑が広がり、風が強くなる時期があるこの地域ならではの住居が見える。


「ここから見えるこの地域の景色。好きよ」


 そう言って振り返ると、執事は嬉しそうに「ありがとうございます」と答えた。


 ――本当に嬉しそうね。


 そんな顔を見ていると、こちらも笑顔になる。そんな時、ノックの音共に「失礼します」という声が部屋に響く。


「どうぞ」


 そう答えると、一人のメイドが颯爽と現れ、お辞儀をする。


「サーシャ様。旦那様がお呼びです」


 その言葉を受け、私は「分かりました。今行きます」と答えた。


「ちょっと行ってくるわね。アンナ」

「行ってらっしゃいませ。お嬢様」


 アンナはそう言って送り出し、私はそのメイドと執事と共に部屋を出て後を着いて行った――。

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