4
今日は天気も良い上に、大会が行われている会場には日陰が多かった。そして、シリウスは私の様に気配に聡くはない。
――でも、このタイミングで当たるなんてね。
「なっ! お前!」
「……」
ただ、私の様に気配を察知するのが上手い人間はそう多くはないため「向こう」も私の姿を見てようやく気がついた様だ。
――それにしても、開口一番が「お前」呼びとはね。
廃嫡された身になって……なのか、元々なのかはこの際どうでも良い話ではあるが、正直あまり良い気分はしない。
――まぁ、呼び方云々というより「相手」のせいだろうけど。
そう、私たちの前に現れたのは……去年の優勝者である「殿下」だったのだ。
「……ああ、なるほど」
殿下は私の隣にいるシリウスをジロジロと観察すると、なぜか一人で納得するように頷いた。
――まぁ、大方。
「お前……俺に捨てられた腹いせか?」
「……」
こう言ってくるだろうとは思っていた。
――むしろひねりがなくてガッカリなくらいね。
「もう男がいるなんてな。しかも、この大会に出ないといけない程金に困っているとは」
――それはあなたでしょうに。
自信満々に言う殿下に対し、私は思わず盛大なため息をつきたい気分だった。
「……」
実はこのイベントでは賞金が出るのだが、それは優勝者と準優勝者だけ。
――まぁ、もちろん差額はあったでしょうけど。
目の前にいる殿下は卒業パーティーで会った時よりも随分と痩せていて、その上着ているモノも以前とは比べものにならないほどだ。
――それこそ、私が気配に鋭くなかったら気がつかなかった程よ。随分と変わっちゃったのね。
その証拠にシリウスはあまりピンときていないらしく、ポカンとしている。
――まぁ、シリウスの場合は「王族どころか貴族との関わり」すら薄いから。
分からないのも無理はないかも知れない。
そして実は、殿下が去年。主人公と共にこの大会に出場した「理由」はアンナが調べてくれて知っている。
――結局、私が思っていた様な深い理由じゃなくて……要するに「遊ぶ金欲しさ」だったなんて。
魔法学校に入学して主人公と出会い。殿下の様子がおかしくなっていた事に気がついた陛下は「頭を冷やせ」という名目で殿下が自由に使えるお金を制限した。
普通であれば、そこで「反省」をするはずなのだが……。
――殿下はどこかでこのお祭りの話を耳にしたのね。
そして、主人公と共にこの大会に出場し見事に優勝して大金を手に入れた……という事だった様だ。
――理由がこれじゃあ。あんまりおおっぴらには言えないでしょうね。
そもそも一国の王子がこの様なお祭りのイベントに参加している時点で前代未聞だろう。ただ多分、今回出場している理由もこの時と多分同じ事だろうという事は容易に想像がつく。
――ペアの相手は主人公……って事でしょうね。
しかし、魔法学校ではピッタリと横に引っ付いていた主人公の姿はどこにも見当たらない。
「おい、何か言ったらどうなんだ」
――自分の行いのせいで廃嫡になった事すら忘れて元婚約者に大きな顔をするなんてね。
彼は完全に忘れてしまっている様だが、今の私と彼の関係は以前とは全くの別で、今の彼は「庶民」と何ら変わらず、私は「公爵令嬢」である。
本来であれば、彼は私から声をかけない限り私に話しかける事すら出来ないのだ。
――それなのに……全く。
「はぁ」
小さくため息をつくと、どうやらそれが気にくわなかったのか、彼は「おいっ!」と大きな声と共にカッと顔を赤くしておもむろに私に手を伸ばした。
「っ!」
私はその大きく鋭い声に思わず体をビクッとさせてしまい、萎縮してしまった。
だけど、そんな私に対して伸ばされた殿下の手を思い切り掴んでいたのは……シリウスだった。
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