3


 結局のところ、殿下との勝負はあっという間……というより「あっけなく」ついた。それこそ、こちらが身構えていたのが嘘だったかの様だ。


 その証拠に……。


「なぁ、あの人……本当に国立の魔法学校を卒業したんだよな?」


 なんてシリウスに再度聞かれた程だった。


「えっ、ええ」


 呆然……呆気……そんな何とも言えない表情でシリウスの質問に答える私の目の前にいたのは、場外で気絶している殿下と主人公の姿。


「……」


 しかし、シリウスがしたのは闇魔法で主人公が強化した殿下の魔力を奪い、それを四大魔法の『火』で二人の少し手前で爆発させただけだった。


 ――何も難しい事はしていないのに。


 正直、そこそこ実戦経験があれば「相手が攻撃に出ようとしているのが分かった瞬間」に防御へと移るはずだ。

 だが、二人は「魔力を奪われた」という事に気が動転しすぎてしまったのか、防御をするまでもなくあっという間に負けてしまった。


 ――あの慌てている二人の姿……一体何のコントを見せられているのかと思ったわよ。


 それはまるで前世で見たコメディの一部分を見ているかの様だった。


「正直、俺たちが過大評価してたんだな」

「……」


 気絶した二人を見送りながらシリウスはそう言っていたけれど、多分。理由はそれだけじゃないと思う。


 ――確かに、二人を過大評価してしまっていたのは事実だとは思う。でも、本当の理由は……。


 殿下や主人公が魔法学校を卒業した後、基礎を疎かにしていたのが最大の理由だと私は考えた。


 ――思えば去年準優勝したのは、彼らがまだ魔法学校に通っていた時だから。


 嫌でも授業の前に準備運動がてらに基礎をやっていた。しかし、今の彼らはそれをしていなかったのだろう。


 ――だから、彼らは簡単な防御の魔法の発動が遅くて慌てた……ってところでしょうね。


 それに加えての闇魔法。


シリウスの話に聞く限り、アンディさんは闇魔法を隠しつつ四大魔法の『水』で相手を圧倒するタイプだった為、二人がちゃんとした『闇魔法』を受けたのは今回が初めてだったのだろう。


 ――いや「ちゃんとした闇魔法」って何よ。


 どちらにしても、これだけあっという間に勝負がついたのはそういった様々な要因が重なった『結果』だろうと推察出来た。


「結局、随分と傲慢な相手だったってワケね」


 再会した時は婚約破棄の時や学校生活の中で向けられた冷たい視線を思い出し「怖い」という感情が先に来てしまったが、結局のところ。実はそこまで恐れる相手ではなかったのだ。


 ――所詮、弱い相手にだけ強く出るタイプの人間だったってワケね。


 そんな人間が国を背負うかも知れなかったという事実には、思わず身震いをしてしまいそうになるけれど、多分。そうなる事はほぼあり得ないだろう。


 ――殿下の弟さんは……殿下を反面教師にしているみたいだし。


「……ん? どうした」

「いえ、何でもないわ。そろそろ出番かしら」

「ああ。今度こそ、あんたの授業の成果を発揮しねぇとな!」

「……もう十分だと思うわよ」


 シリウスは「そうか?」と首をかしげているけれど、私はそう思う。


 先程の殿下との勝負。あの時の闇魔法を発動するまでの時間に『火』の魔法への応用と威力。とても授業をする前とは比較出来ないほど上手くなっている。


「でも、ちゃんと優勝しねぇと!」


 笑顔で「なっ!」と私に同意を求めるシリウスの姿は……とてもまぶしくて。


「……そうね」


 吹っ切れたつもりだったのに、全然前を向けていなかった自分が隣にいる事に……なんだか申し訳ないという気持ちになった。


 ――それに、いつまでもお世話になっているワケにはいかないわよね。


 シリウスの魔法のレベルは上がり、この分なら魔法学校で遅れを取る事はないだろう。


 ――だから。


 私は「このイベントが終わったら、お父様に連絡して実家に帰ろう」そう心に誓ったのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る