2


 なんだかんだ、私はずっと気を張っていた様な気がする。


 婚約を破棄されて、遠縁の全く知らない土地に来て……実は不安で仕方がなかった。確かに、みんな私に良くしてくれていた。


 ――それでも。


 ずっと気を張っていたのは事実だ。


 そこに婚約破棄をした張本人の殿下と会ってしまい、何とか「いつも通り」に対応は出来ていたと思うけれど……。


 ――こうして優しくされると、泣きたくな……。


「!」


 私はそこでようやく「シリウスに抱きしめられている」という事に気がついた。しかも、幼い子供をあやすように頭をポンポンとする。


「ごっ! ごめんなさいっ!」


 恥ずかしさと申し訳なさから私は思わずシリウスから離れ、すぐさま距離を取った。


「いや、気にするな」


 なんてシリウスは言うけれど、その顔は「ようやく自分の状況に気がついたか」と言わんばかりに笑いを堪えている。


 ――うぅ、恥ずかしい。こんな、子供みたいに。


「……もう、大丈夫そうだな」

「ごっ、ごめんなさい」

「いや、あんたが謝る様な事じゃねぇよ」


 そう返されると、私は何も言えなくなる。


「そんな事より……」

「?」

「次、さっきのヤツらと当たるんだろ?」

「えっ、ええ」


 順番通りにいけば、そろそろ準備をしなければいけないはずだ。


「じゃあ……」

「?」

「次の試合。俺に任せてくれねぇか?」

「え、いや。でも」


 シリウスの実力が上がっているのは、私が一番分かっているつもりだ。


 しかし、魔法学校を卒業する間際だったとは言え、その時の殿下の実力と今のシリウスの実力は……実は良い勝負だった。


 ――それに加えて主人公。


 彼女の実力は……お世辞にも「強い」とは言えないけれど「サポート」に徹されてしまうと、勝負は全然分からない。


 ――何せ、学校では基本的に個人戦だったから。


 しかし、このイベントはペアで戦わなければならない。そして、主人公はサポート系が得意。


 ――それを踏まえて考えると……。


 実はかなり良い勝負になるのではないか……と思っていた。


 ――それなのに、シリウスに任せるのは……。


 少し不安が残る。


「……大丈夫だ」

「そう自信満々に言える理由が……あるのね」

「ああ」

「そう。でも前もって言っておくけれど、私。あんまりサポート系の魔法は使えないわよ?」


 そう言うと、シリウスは「ははは」と笑う。


「……何?」

「心配すんな。あんたの手を煩わせる程じゃねぇよ」


 なぜか盛大に笑うシリウスに対し、私は「そう?」と首をかしげると……。


「……なぁ。出来ればそんな可愛い顔を周りに見せないでくれないか」


 突然そんな事を言うモノだから、私は「何よそれ」と思わず笑い出したくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る