4


「……」


 イベント終了後――。


 シリウスはたくさんの人に囲まれていて、私は蚊帳の外にいた。


 ――でも、かえってその方が良かったのかも知れないわね。


 その方が「私がいなくなっても問題ないだろう」そう思えたから。


「……ふふ」


 あまり目立つ事や人に囲まれる事に慣れていないのか、シリウスはぎこちない笑顔を浮かべながら人々の対応をしている。


 ――まるでヒーローインタビューね。


 殿下たちの勝負が終わった後、すぐに行われた決勝もシリウスが主体となってあっという間に勝負がついた。


 ――何でも最速で終わったとか……。


 しかし、このお祭りでいつからこのイベントが行われ始めたのか定かではないため「その人たちが見た限り」だとは思うけれど。


「……」


 ――お父様には連絡は行っているはずだし、早ければ明日にでも……。


 なんて思いつつ星が綺麗な空を見上げていると……。


「はぁ」

「!」


 突然シリウスが私の横に現れた。


 ――びっ、びっくりした。


 ついさっきまで人に囲まれていたと思っていたがために、まさか私の隣に現れるとは思っていなかったのだ。


「どっ、どうしたの」

「いや……さすがに疲れた」


 そう言ってシリウスはグッタリとしていた。


「ふふ、そう」

「……なぁ」

「何?」

「あんた、帰るだってな」

「……」


 唐突に聞かれた……というのもあったけれど、それ以上に「シリウスがもうその話を知っている」という事に驚いた。


「まっ、まぁ。いつまでもお世話になっているワケには……いかないし」

「だったら、俺が学校に戻るまで待てばいいだろ」

「……もう、私が教えなくてもあなたの実力は上がったわ」

「いや、そうじゃなくて……だな」


 そう言うと少しだけ沈黙が流れ、シリウスは「あー!」と声を上げた。


「やめだやめ! 俺らしくねぇ!」

「?」


 なぜか自問自答しているシリウスに、私は思わず首をかしげる。


「……なぁ、サーシャ」

「なっ、何」


 今まで「あんた」としか呼ばれてこなかったために、改めて名前で呼ばれるとくるモノがある。


「俺が帰らないでくれって言ったら……ここにいてくれるか?」

「え、いや。でも」


 ――もうお父様に連絡してしまったし。


 そう思いつつ真剣な眼差しで近づいて来るシリウスに、私は思わず後ずさりをしてしまう。


「俺、あんたの事が――」


 シリウスがそう言ってさらに私との距離を詰めたところで……。


「二人の婚約が決まったよ~!」


 まるでタイミングを見計らった様に笑顔のアンディさんが現れた。


「……あれ、お邪魔だった……?」


 私とシリウスの距離や雰囲気でアンディさんはその場から立ち去ろうとしたので、私はすぐに「いっ、いえ!」とシリウスを押しのけて距離を取る。


 ――と言うか。今「聞き捨てならない事」を言われた様な……。


「あっ、あの。先程はなんて……」

「ん? ああ、だからシリウスとサーシャさんの婚約が決まったって話」

「……え」


 ――きっ、聞いてない!


「あれ? 知らなかったのかい? このトーナメントで優勝したらそうするってグレイブ公爵にも話は通してあったはずだけど」


 アンディさん「はて?」と言わんばかりに話しているのだけれど、どうやらシリウスもこの話は知らなかった様で呆気に取られている。


「でもまぁ、貴族の結婚なんてそんなもんだし、少なくともシリウスは乗り気なんじゃないかな?」


 そう言って自分の息子であるシリウスの方へ視線をやると……シリウスはパッと視線をそらした。


「でっ、でも遠縁でも親戚というのは……」

「ああ、それは大丈夫。遠縁ってものすっごく離れているから。何せ、グレイブ公爵とかなり遠縁の親戚関係だって知ったのも偶然王宮で会って話した時ぶりくらいだったし」


 あっけらかんと答えるアンディさんに、私とシリウスは呆気に取られてしまう。


「後はサーシャさん次第なんだけど……どうかな?」


「わっ、私は……」


 チラッとシリウスの見ると、顔を真っ赤にして俯いて……それを見て私も思わず顔に熱を帯びている感じがした。


「――決まりかな?」


 明らかに楽しげなアンディさんの言葉に、私は無言のまま頷くと……。


「!」


 おもむろに手を握られた事に気がつき、私は驚きから思わず顔を上げると、そこには顔を背けながらもさらに顔を真っ赤にしているシリウスの姿があった。


「……どうやら決まりみたいだね」


 ――決まりも何も……。


 親同士が決めたのだから、基本的に私はそれに従うまで……なのだけれど。


「……」


 ここまで嬉しそうにしてくれるシリウスに、私も思わず顔を真っ赤にすると、様々な視線を感じ……。


「!」


 気がつくと、そこにはさっきまでシリウスの周りにいた人たちの姿があり…点私はシリウスと一緒にその場から逃げるよう走り出した。


「ふふ」

「なっ、なんだよ」

「何でもない!」


 婚約破棄をされた時もこんな感じだったかも知れない。


 ――でも、まぁ。


「こんなはずでも、なかったんだけどね!」


 でも、この時の私は……とても楽しくて思わず笑みがこぼれ、シリウスはそんな私に「なんだよそれ」と言って一緒に笑い合ったのだった――。

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『悪役令嬢』でしたが、ワケあって魔法指導をする事になりました。 黒い猫 @kuroineko

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