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「あっ、あの! どうしてそこまで……それに、ペアの相手がいないって」

「えっと……それは、その」


 本当は執事のモリソンさんに聞こうと思っていたが、フローラさんが話してくれるのであれば、そちらの方が良い。


 ――それに、結婚を決めるきっかけになるほどのイベントって。


 思わず聞き流しそうになったけれど、そもそも「侯爵家の息子とメイドが結婚する」と言うのは貴族の常識としてはあまりない話でもある。


 そんな中で「このイベントで優勝すれば」という条件に上がるという事は相当この『魔法トーナメント』はクロムエル家にとっては大事なイベントの一つの様だ。


 ――しかも、フローラさんがわらにも縋る思いでお願いをするって……。


 相当なモノなのだろう。


 ――でも。大事なイベントならなおさら……。


「あの、そういった相手なら婚約者とか……」


 おずおずと手を上げて私はずっと気になっていた事を尋ねると……。


「……」

「……」


 なぜか二人はお互い言いづらそうに顔を見合わせている。


「?」


 そんな二人の様子を見て、私はすぐにハッとした。


 ――いけない、踏み込みすぎた!


 そうは思ったモノの、さすがに今更引き下がれない。


「あのね。実は……」


 フローラさんが説明しようとしたところで、シリウスが「いいよ、俺から話す」と制した。


「あ、えと。シリウス、私から聞いておいて何だけど言いにくいのなら……」

「いや、いい。気にするな。元々、俺のせいだしな」

「シリウスのせい?」

「ああ。正確に言うと『俺の魔法』のせいだな」


 苦笑いを浮かべつつシリウスはそう言う。


「?」


 しかし、その『意味』が分からず私は首をかしげる。


「ああ、もっと言うと……だな」


 シリウス曰くクロムエル家も普通の貴族と同じように幼少期に婚約者ないし婚約者候補がいるらしい。


「ああ、ちなみに父さんの場合は『変わり者過ぎて』婚約者どころか婚約者候補すらいなかったらしいけどな」

「ああ」


 ――それは……分かる様な気がする。


「で、俺の場合は……貴族が集まるお茶会で魔法を使っちまって……」


 どういった経緯があったのかは分からない。


 しかし、実は実家の名前を笠に着て勘違いをしている貴族の子供たちが「自分たちは偉い!」と思って貴族の中でも下の位の人たちにちょっかいをかけてしまう事があるらしい。


 ――でも、魔法が使えるのは確か……。


 そこで私はハッとした。


「あなた。もうその時点で魔法が使えていたの!?」

「え、あっ。ああ」

「あ……」


 私は思わずズイッと顔を近づけてしまった。


「……」

「……」


 ――でも、それなら……。


「シリウスはそこで貴族の娘さんに怪我をさせてしまってね。それ以来出禁になっちゃったの」

「ああ、なるほど」


 そしてシリウスはいわゆる婚活のチャンスを失ってしまったというワケだ。


「それ以降。どうにも魔法を使うのが苦手になっちまってな」

「ちなみに、その時使ったのは……」

「水だ。だがまぁ、むしろ水で良かったかも知れないな。何せ一番弱いらしいから」


 シリウスはそう言って笑っているけど、その表情は……どことなく力がない様に私には見えた。

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