3


「ペア?」

「ああ、ペアだ」

「いやいや、待って! ペア……って、誰とアンディさんが組んだのよ」

「ん? それならもう会っているだろ?」

「え」


 シリウスはそう言いつつチラッと『ある人物』の方へと視線を移し……私もその視線を追う。


「まっ、まさか……」

「そ。そのまさかだ」


 その視線の先にいたのは、私がこの屋敷に来た時にアンディさんの部屋へと案内してくれた『メイド』だった。


「え、待って。でも『メイド』って……」


 ――あれ、そういえば……。


 ここで『ある事』に気がついた。それは……。


「――ねぇ」

「ん?」

「私の記憶が正しければ……なんだけど」

「うん」

「私、シリウスのお母様にまだ会っていない様な……」


 そう言うと、シリウスは「今更かよ」と言わんばかりの顔で私を見る。


 ――うぅ。完全に忘れていた! いや、でも……。


 普通は旦那であるアンディさんと一緒に挨拶をするモノで、もしいなければその場で何かしらの説明があるはずだ。


 ――それがなかったからつい。


 私はそれを「触れてはいけない話」と捕らえてしまっていた。でも、本当はそうではなかったらしい。


「いや、まぁ何も言わなきゃ分からないのは仕方ない。俺もてっきり既に話してあると思っていたからな」

「え」


 ――それってどういう?


 思わず首をひねっていると、件のメイドがこちらを振り返る。


「失礼しました。私、シリウスの母。フローラ・クロムエルと申します」

「……え。はっ、母?」


 その言葉に思わず目を白黒させていると、シリウスは笑いを堪えている。


「はい」


 シリウスの母と名乗ったその女性は、そう答え。私は思わずシリウスとフローラさんを交互に見てしまう。


 ――たっ、確かに似ているけど。


 しかし、本人から説明をされないと分からないほどである。


「でっ、でも。なんで『メイド』の姿なんか……」

「ああ。それは母さんが元々『メイド』だったからだな」

「え」

「父さんの一目惚れだったらしい。で、この祭で優勝したら二人の結婚を認めるって話になって」

「優勝した……と」


 そう言うと、シリウスは「そっ!」と笑う。


「そこからは負けなしのレジェンド扱い」

「へっ、へぇ……」


 正直、隣で普通にお茶を淹れている姿からは想像が出来ないが、相当な使い手らしい。


「サーシャさん」

「はっ、はい!」


 フローラさんに名前を呼ばれ、私は思わず返事をする。


「よろしければ、このお祭りにこの愚息と共に出て頂けないでしょうか」

「え、いや。でも……」


 ――きっと婚約者の人とかペアを組んでくれそうな人くらい。


「出て頂けるだけでも良いのです。この子には……ペアを組める相手がいないのです」

「……え」


 フローラさんの言葉は「息子を心配する母親」だけでなく「切実な願い」を言っている様に聞こえた。

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