3


「……」

「どうした」

「あ、いえ。今日は……トーナメントの振り分けがされないのね」

「うん? ああ。それはもう少し後だな。今はとりあえず参加申し込みして、後で振り分けられる」


「へぇ、特に上限はないのね」

「ああ。だが、参加者のレベルを見て参加を決める人や辞める人もいるから、毎年参加者はほぼ横ばいらしいけどな」


 シリウスの言葉に、私は「なるほどね」と相槌を打つ。


 ――でも、それだけこのトーナメントの参加者の実力は拮抗しているって事よね。


 その上、このトーナメントは『ペア』が条件だ。要するに「一人だけ強くても意味がない」と言う事だ。


「……ところで、このトーナメントの勝利条件って……何?」

「ん? ああ。そこは普通の実戦試験と変わらねぇ。円形の会場に設置された線をペアのどちらか一人場外を出てしまうか、戦闘不能が条件だな」

「眠りの魔法は?」


 一応、この世界にも「眠りの魔法」というモノがある。ただ、それを使うには一定距離まで空いてと距離を詰めないといけないのだけれど。


「どうだろうな。基本的に相手に対して直接攻撃以外はOKっていうルールはあるが……」


 なぜかシリウスはそこで言葉を止めた。


「?」

「いや、別に血の気が多いとかそういうんじゃねぇけど。どっちかって言うと、ド派手に目立ちたいってヤツが多いから、そういった『堅実に勝ちに行く』って戦い方をする人間はあまり見た事がなくてな」

「あー、なるほど」


 確かに、こういった『イベント』ではそういった方が華やかだし「これぞお祭り!」という感じなのだろう。


 ――むしろ、そんな戦い方をすると逆にブーイングが起きるかも知れないわね。


「それに、そこまで距離を詰めるより、魔法でゴリ押しって言う方が何気に強いっていう感じがすんだよな」

「あら、それって実際に見ての感想?」

「ん? まぁな。なんつーか、去年見ているとそんな感じだしたんだよな」

「それって、去年準優勝したペアの話?」


 そう尋ねると、シリウスは「ああ」と頷く。


「父さんと母さんの最後の試合だったし、去年の話だからな。まぁ、去年は前に出て主力として戦うヤツとサポートのヤツの役割がキッチリと分かれていた。キチンと役割分担されていたから、戦いやすかったのかもな」

「……そうなの」


 どうやらシリウスがこの時期実家に帰って来ているのは、このイベントを見るための様だ。


「で、俺たちはどうするんだ?」

「それは……」


 話の流れそのままに尋ねられ、私は「後で考えましょう?」とチラッと後ろを見ると、途端に視線を外された様な気になった。


 ――どうやら、戦いは既に始まっているみたいね。


「?」


 ただどうやらシリウスは何も気がついていないらしく、不思議そうに首をかしげている


 ――本当に慣れていないのね。


 魔法学校に通っていた時もこういった「駆け引き」と言うか、人の話に「聞き耳」を立てている連中はよくいた。


 ――まぁ、それだけ注目度が高いって事なんでしょうけど。


 何せ服装は違えどシリウスがクロムエル家の人間だと言う事を知っている人間は結構いるはずだ。注目されるのも無理はない。


 ――それに、私もいるし。


 髪型や服装はいつもと全然違うが、コレも見る人が見れば分かる範疇だ。


「ところで」

「ん?」

「その去年優勝した人って……誰か分かる?」


「ん? ああ、確か――」


 私の問いかけに、シリウスは視線を上にしてその時の事を思い出そうとしていた。しかし、実はこの時。私はこの「去年準優勝したペア」が誰なのか、何となく……分かっていた。

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