第6章 元『悪役令嬢』による魔法講座
1
「……」
「お嬢様?」
部屋に戻り、私はぼんやりと自分の手を見ていた。
「ん?」
「どうされましたか? ご自身の手を見て」
「いっ、いえ? 別に何か意味があるワケじゃないのよ。ただ……ちょっとね」
「……そうですか」
多分、アンナは今の私の言い方に疑問を感じたはずだ。しかし、それをあえては聞かない。
――本当に主人に忠実ね。でも、それがありがたいわ。
食事も入浴も終え、後は寝るだけ……だったのだが。
「ところで、この大量の本は……」
「ああ。コレは借りたのよ」
「借りた……ですか」
「ええ」
シリウスに連れられて行ったのはこの家の書斎だった。
「元々は先代が使っていたんだけど、父さんはあまり使わずに自分の部屋で仕事をしたいって人らしくてな」
「なっ、なるほど」
そうした中で『闇魔法』に関する書物をいくつか借りてきたのだ。
――それにしても……。
クロムエル家の当主であるアンディさんと話をし、その後にシリウスの魔法を見て書斎で本を借りていたため、部屋に戻るのが遅くなってしまった。
――それでも。アンナはちょっと小言を言っただけなのよね。
正直、私としてはもう少し言われると覚悟していた。日は傾いていたし、何より「ちょっと行って来る」としか言っていなかったのだから。
「つまり、お嬢様はこれから魔法を教える……という事ですか?」
「ええ」
「そして、その方は『闇魔法の使い手』と」
「使い手かどうかまではまだ分からないけどね」
シリウスは魔法を見せる前に私の腕を掴んで書斎へと案内した。
「……」
正直、今まで「男性に手を掴まれる」なんて体験をしてこなかった私にとって、あまりに突然の事で一瞬頭が真っ白になってしまった。
――でも……。
私はあまりに驚いてしまったけれど、先を歩くシリウスは特に気にしていない様子だった。それを見て、私は少し悲しい気持ちになってしまった。
――まぁ、彼も侯爵家のご子息だから。
きっと婚約者くらいいるのだろう。
そもそも私が前世の記憶を取り戻す前。それこそ魔法学校に入学する前は、きっと殿下ともそういった「手をつなぐ」といった事もあった……はずだ。
しかし、前世の記憶を取り戻した時。既に私は『悪役令嬢』になっていた。
「お嬢様? どうかされましたか?」
「いえ? 何でもないわ」
私はそう言ったモノの、アンナは心配そうに「今日はもうお休みになられた方が」と進言してくれる。
「大丈夫よ」
そう言って私は書斎で借りた本をパラパラとめくり「ある項目」で手を止めた。
「……なるほど、やっぱりね」
――だからシリウスはあの時……。
「? お嬢様? どうかされましたか?」
不思議そうに首をかしげるアンナに対し、私は「いいえ、何でもないわ」と答え、そのまま本をパタンと閉じた。
「でも、アンナの言う通り。今日はもう寝ることにするわ」
「はい」
私がそう言うと、アンナはどこかホッとした表情を見せる。どうやら相当心配させてしまっていたらしい……と私は思わず顔を下に向けて苦笑いをした。
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