第8-4話 ダメージ床整備領主、海水浴バカンス(後編)
海のモンスター、メガロドンに襲われかけた私を助けてくれたアイナ。
彼女は魔力を使い果たして倒れてしまったのだが……。
「フリード! アイナの様子はどうだ!?」
砂浜までの50メートルを一息で泳ぎ、慌ててアイナの元に駆け寄る。
「兄さん! なんとか呼吸は落ち着きましたが、危険な領域まで魔力を放出していて……今すぐ手当をしないと……!」
真っ青な顔をして浅く呼吸を繰り返すアイナ。
”魔力”は、術者の生命力と密接に結びついており、普段は無意識のうちに使いすぎないようにリミッターが掛かっているのだが、なにかの拍子に限界以上に魔力を使ってしまうと、このように生命の危機に陥ることもありうる……。
有効な治療法は、”直接魔力を送り込む”ことだが……私は専門の魔力療法士ではないので不安が残る……だが、街まで運ぶ余裕はない。
やるしかないか……そうだ、サーラなら!?
規格外の魔力量を持つ伝説の聖獣であるサーラなら、力技で治療が可能かもしれない。
「すまん、フリード! サーラを呼んできてくれないか? 私はサーラが来るまでアイナを持たせる!」
「わかりました! 兄さんの方が魔力量が多いですからね、待っててください!」
私の指示に即座に反応し、海に飛び込むフリード。
ここに戻ってくるまで20分という所か……私の魔力でどこまで回復させることができるか分からないが、やるしかない!
パアアアアアアッ……
目を閉じ、集中する……術式は組み立てず、ただ魔力を自分の身体の奥底から取り出すのだ。
じんわりと胸と手のひらが暖かくなり、ほのかに光りはじめる……低魔力症の治療には、無属性の魔力をなるべく一定の圧力で……暇つぶしに呼んだ魔導医学書に、そう書かれていたのを思い出す。
私はそっと目を開けると、いまだ昏睡するアイナの身体を優しく抱きしめる。
ぎゅっ……
「アイナ、私が助けてやるからな……」
再び目を閉じ、一定の魔力を彼女に注ぎ込めるよう、集中するのだが……。
どくんっ!
「……くっ!?」
魂まで吸い取られそうな圧力に心臓が跳ねる。
アイナは莫大な魔力量を持っている……そのタンクが一気に空になったのなら、これほどまでにどん欲に魔力を欲するのも道理か……しかしっ!
ここで恐れて引く私ではない!
彼女に届けとばかりにさらに魔力を注ぎ込む。
紫色になっていた唇が色を取り戻し、僅かに頬に朱が差していく……。
よし……これなら……むっ、まずい……意識が……。
アイナの唇がわずかに動いたことを確認した瞬間、私の意識は闇に飲まれた。
*** ***
「…………」
「…………にはは」
「…………まったくにんげんのまりょくりょうで無理をするとはな!」
う……良く通る声が聞こえる……これはサーラか?
じわぁ……
暖かいというにはいささか温度の高い、焼けつくような魔力が身体じゅうに満ち……。
「……っと! あちちちっ!!」
一気に意識が覚醒する。
目を開き、体を起こした私が見たのは、ドヤ顔でにしし笑いをするサーラと、その周りをふよふよと飛ぶアルラウネだった。
「おうししょー! 目を覚ましたか! けっこう危ない所だったぞ!」
「わたしとサーラで魔力を補充しましたから、もう大丈夫です」
助かったのか……思わず一息つく。
って、そうだ……アイナは!?
気を失う前の事を思い出し、慌てて横を向いた私が見たのは。
「えへへ、カールさん……心配をおかけしましたっ!」
恥ずかしそうにもじもじしながら、いつも通りに笑顔を浮かべるアイナの姿だった。
良かった……思わず全身の力が抜ける。
「サーラちゃんの話では、兄さんの初期対応が良かったそうですよ」
「にはは、アイナはちょいやばかったがな! ししょーがある程度の魔力をさいしょに入れたおかげだ!」
そうか……本で読んだ見よう見まねの行動だったが、なんとか効果が出てくれたか。
フリードとサーラの言葉に、あらためて安心感がこみあげてくる。
「わふぅ……またカールさんに助けられちゃいましたね、ありがとうございますっ!」
そう言って嬉しそうに耳をピコピコ動かすアイナ。
「なにを言うアイナ……あそこでキミが助けてくれなかったら、私は今ごろメガロドンの腹の中だ。ありがとうな、アイナ」
「わふっ! くすぐったいですっ!」
彼女のほうこそ、私の命の恩人だ……感謝の気持ちを込め、わしゃわしゃと頭を撫でる。
「……ただ、あの”魔力ビーム”は……」
見なかったことにしても良かったのだが、やはり気になる……アイナが私を助けるときに使った”魔力ビーム”の事を口に出すと、とたんに彼女の表情が曇る。
「……アイナ、大ピンチの時や、なにかを助けたいって強く願ったとき……たまにああなるんです」
「カールさん、聞いてもらっていいですか?」
いつになく真剣な表情をするアイナに、タダならぬ事情がある事を察した私は、真剣な表情でうなずく。
私の手を握る彼女の手のひらは汗ばみ、ぎゅっと力が込められる。
「アイナ、獣人族の村で生まれたんですが、祖父……おじいちゃんが魔族だったことが分かって……忌み子として捨てられちゃったんです」
「捨てられた森の中で、モンスターに食べられそうになったとき、あの力がバーンって……気を失って倒れていたところをフェリスさんが拾ってくれて」
「やっぱりアイナ、怖い子なのかなぁ……みんなに災いをもたらすくらいなら……」
自分の事情を話すうち、どんどんの彼女の大きな目に涙が溜まっていく……その先は言わせない。
そう思った私は、彼女の身体をぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫だ……アイナは怖くない」
「それに、アイナがいなくなったら私が困る……掃除が苦手な私の部屋を誰が片づけてくれるんだ?」
「カールさん……えへへ、そうですね!」
身体を離し、あえて冗談めかした私の言葉に、アイナの顔に笑顔が戻る。
「さっそく”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”を改良するぞ!」
「リミッターもつけて、より効率的にアイナの魔力を使えるように!」
「わふっ! いいですねそれっ! アイナ、さらに強くなれますかっ!!」
「ああ! アイナ、キミが世界最強だ!!」
いつもの調子を取り戻し、ずびしっ! と夕陽を指さす私とアイナ。
”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”……身に着けていなくても彼女を守るアタッチメントが欲しい所だ……研究中の新理論を投入すれば……。
私が改良案を頭の中で組み立て始めた時……!
「まだまだ未熟な男よ! それしきの改良で大切な女を守れると思うなあああああああっ!」
突然響き渡る野太い声。
「あっ! あそこの岩場の上!」
ドバアアアアアアンッ!
フリードが指さす先、大波が打ちつける岩場の上に……夕陽をバックに仁王立ちする一人の大男が現れた。
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