第7-3話 伝説の精霊アルラウネ

 

「うへへ……極上スイーツ200個、食べ放題だぁ……」


 幸せな夢を見ているのか、私の膝の上で欲望ダダもれの寝言を漏らすアイナ。


 そんな微笑ましい光景とは関係なく、目の前の大木のふもとに現れ、ふよふよと浮かぶ一人の女の子。


 身長?大きさ?は50㎝くらいだろうか。


 新緑の鮮やかさを思わせる緑色の髪をツインテールにしており、くりくりとした大きな瞳は大地と同じ土色をしている。


 スソが大きく開いた深緑のローブのスリットからは、すらりとした脚がのぞき、足元にはサンダルを履いている。


 だが、彼女の持つ特徴のうち目立つのは、なんといっても背中に生えた二対の金色の羽根。


 その羽根からはキラキラと何かの粒子が放出され、彼女の身体を宙に浮かべているようだ。


「コイツはまさか、伝説の……”精霊”か?」


「えええっ!? 兄さん、”精霊”って、【女神がこの世界を作りし時、神の代行者として地上に遣わした7体】とかいう、神話のアレですよね?」

「子供向けのおとぎ話じゃ……?」


 精霊……今フリードが言った通り、この世界で信仰されている女神が世界創世の直後に地上に派遣したという7体の代行者。


 彼女たちが魔力を世界にもたらし、この世界で使われている魔法のもとになった……と言われているが、魔導技術が進んだ現在、数多くの発掘調査により、魔力はこの世界の”地脈”から自然発生しており、”魔導”も生物が進化の最中で編み出したものということが分かり、”精霊”なるものは、古代の精霊信仰の名残としていくつかのおとぎ話に残っているに過ぎないのだが……。


 ……実際に目の前に存在している彼女を見てしまったからには、存在を信じるしかあるまい。


 それにしてもこのカイナー地方、サラマンダーはいるわ、精霊はいるわ、どうなっているんだ?


 これは、色々な常識がひっくり返るな……私が技術者として色々思案を巡らせていると、騒ぎに気付いたサーラが食事の手を止め、こちらにやってくる。


「おお! 大地のせーれー、アルラウネではないか! 200年ぶりか? 今回は、やけにはやい目覚めだな!」


 ……って、知り合いか!


 そうだった、我々のもとにはすでに常識外な伝説の魔物、サラマンダー(現:メイド)がいるんだった……。


 久しぶりに会った友人に接するような気軽さで話しかけるサーラの様子に、私は自分たちの常識がガラガラと崩れていくのを感じていた。



 ***  ***


「にはは、アルラウネよ……つぎの”微調整”はまだ200年先ではなかったか? もうすこし人間どもの世の中でもよいであろう?」


 ……なんか人類の未来について非常に重要な会話が行われている気がする……。


 少し悪い表情になったサーラにかまわず、精霊の少女……アルラウネは恥ずかしそうな表情を浮かべ、ぼそぼそと返答する。


「さっきの肥料が……美味しかったから」


 ……目覚めた理由が俗っぽい!?


 くそっ、この私がツッコミ役に回るとは……つくづく常識外の連中だ……。


「くんくん……さっきの肥料を作ってくれた人……あなたね?」


 ひゅ~ん……つんつん。


 肥料というか、ニジマスの姿をした炭を作った張本人を匂いで判断したのか、アルラウネはふよふよと私のもとまで飛んでくると、指先でアイナの頬をツンツンし、起こそうとする。


「わふぅ……アイナ寝ちゃってたぁ? ……はうっ!? なにこれ! 妖精さん!?」


 微弱な刺激にぱちりと目を開いたアイナは、目の前に浮かぶおとぎ話から飛び出てきたようなアルラウネの姿に気づき、飛び起きる。


 ぴん! と尻尾を逆立たせ、ズガーンと驚愕の表情を浮かべるアイナに対し、アルラウネが発した言葉は。


「シェフに挨拶したくて! あなたの、最高だった! もっと作って……」


 あんまりと言えばあんまりなリクエストで。


「アイナの料理は肥料じゃありません~~~!」


 彼女の抗議の叫び声が、夏の夜空にこだましたのだった。

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